ロシア人の法則
ロシア極東国立総合大学函館校 准教授 鳥飼 やよい
先日、たまたま本屋で米原万里の「米原万里の『愛の法則』」を見かけ、新書で薄いから立ち読みで済ませようと半ば程まで読み進んだところで、ちょっと捨ておけない箇所に出くわし、結局買う羽目になった。その捨ておけない箇所とは以下の件である。
「…三つの外国語 を学ぶ場合、日本語が膠着語で、英語が(…)孤立語なので、もう一つは屈折語を選ぶと、皆さんの脳みそがすごく柔らかくなると思います。」(「米原万里の『愛の法則』」米原万里、p106、集英社新書)
私は「はた!」と膝を打った。ちなみに膠着語とは「て、に、を、は」がついて言葉の意味が決まる日本語のような言語、孤立語とは語順によって意味が決まる英語のような言語、そして屈折語とは語尾変化のある露語やフランス語のような言語である。なぜ三つの外国語かというと、英語一辺倒社会である現在の日本の状況に情報の偏重を憂えた著者が、批判精神と複眼思考を養い且つ脳みそを柔軟にするために、もう一つ外国語をと読者に勧めているわけだ。
なぜ私が膝を打ったかはお分かりだろう。日本語と英語とロシア語。そう、私は偶然にもこの三つの言語に関わる女なのである。ところで少し冷静に考えると、極東大学函館校の同僚達は(そうでないと思われがちな先生も含め実は)ほぼ全員がこの三つの言語を持つ人々である。多くの場合日本語の知識が英語に勝つとはいえ、ロシアの大学における英語教育の成果はお墨付きだ。そういうわけで極東大学の教員は、みな脳みそが「すごく柔らかい」ということになる。
脳が柔らかいとは何か?それは大方の意見とは違う意見を自分のものとして提示できるということであろう。その柔らかさの例は枚挙に暇がない。
ある時、ある日本の大学院教授が猥褻行為で逮捕されたというニュースを同僚に向けてみた。「ああ、とても可哀想な先生!」「どうして彼は恋人か妻に(対して)それをしなかったんですか?」「日本の男性は変です。ロシアではまず女の人に許可を得てからそういうことをします」等々の声。非常に独特である。
またある時、アメリカのドメスティックバイオレンスの専門家の講演の通訳をするから興味あったらどうぞと誘ったところ、「えっ?そのためにわざわざアメリカから来るんですか?」「女房は叩いて愛するものだ」「ロシアには『叩くことは愛すること』という言い回しがあります」等々の返事。この時はさすがにちょっと頭にきた。
また別の日の午後、私が授業を終えて職員室に帰ると、校長と教頭とG教授が頭をつき合わせて真剣に話し込んでいる。何を一体そんなにと聞き耳を立てると「今年のキャベツの漬け物をベランダに出しておいたらカラスにやられた」というやり取りの一部が聞き取れた。
さてこれらは実に日常的な情景であるが、こうした例は全て一体何を意味するのか?それは、結局三つの言語を学んで脳みそが柔らかくなるのは日本人の私一人であって(これだけいろいろ異論を聞かされると、世間一般の見方をちょっと疑ってみたくもなる)、このロシアの人々は何ヶ国語知っていようと、どこにどれだけ長く住もうと、どこまでも変わらずロシア人であり続けるということである。ロシア人であるということは、男といえども漬け物を漬けることは勿論であるが、さらに猥褻行為や家庭内暴力の話から「日本の女性の権利云々」といった「グローバルな」一般論に一足的に飛ぶのではなく、まず対象を自分の方に引き寄せて自分の尺度でつかんでから投げ返すということである。ま、要するに自分であり続けるということである。これが私のロシア人の法則である。結構脳みそは硬いみたいだ。しかし柔らかくなる必要を特に認めてもいない様子だ。
私個人としては、修養のためもう少し脳を柔らかくしてから、地固めをしていこうと思っている。
では、最後に一句:
Умом Россию не понять,
Аршином общим не измерить:
У ней особенная стать –
В Россию можно только верить. Ф.Тютчев
字余り。
石館とみ奨学金創設
このたび本校では、日ロ交流を担う優秀なる人材の育成と教育成果の向上を図ることを目的とする「石館とみ奨学金」が創設されました。
採用対象者は年度の学習成績上位で、かつ奉仕の精神が顕著に見られる学生で、年間最大2名を限度とします。なお奨学金は1人につき35万円が給付されます。
弁論大会
第13回 ロシア語弁論大会・マースレニッツァ開催
2月15日(金)「第13回ロシア語弁論大会」を行います。
今年は従来の部門に加えて、高校生の部(短編の暗唱)を新設。より充実した部門構成での開催となります。
本校学生対象部門への出場希望者は、1月18日(金)午後4時までに所定の申込用紙で学校事務局へ申込んで下さい。
弁論原稿は露文・翻訳文ともに1月21日(月)午後4時までに、フロッピーまたはE-mailで担当教員へ提出してください。
弁論大会終了後は午後から、冬を追い出し春の訪れを喜ぶロシアの伝統的なお祭り「マースレニッツァ」を開催する予定です。弁論大会の表彰式もこの中で行います。
JASSO奨学金関連
奨学金の返還手続きについて
平成20年3月に貸与期間が終了する奨学生は、返還誓約書・借用証書、その他の必要書類を1月15日(火)までに事務局へ提出してください。
試験日程
卒業試験日程
ロシア地域学科4年生を対象に下記の日程で国家試験を行います。なおロシア語科2年生は、この期間に卒業試験を行います。
3月3日(月)~3月10日(月)
ザチョットは下記と同じ日程で行います。
後期試験日程
ザチョット:2月25日(月)~2月29日(金)
エグザメン:3月3日(月)~3月14日(金)
詳しい時間割は、後日掲示します。
出席不足の学生は
本校では出席率80%以上が期末試験の受験資格となっています。出席率の低い学生が受験資格を得るには、自ら積極的に担当教員の指導を受けるなどして遅れを取り戻しておく必要がありますので、最大限の努力をしてください。
卒業証書授与式
第13回卒業証書授与式を下記のとおり行います。卒業予定者と在校生は、全員出席して下さい。
日時:3月17日(月) 午前10時
場所:本校3階講堂
留学実習
第2回留学説明会のお知らせ
第2回留学実習説明会を1月17日(木)午後2時40分から第6教室で行います。ビザ申請用の写真1枚(タテ4×ヨコ3cm)を忘れずに持参してください。
この日はビザの申請書類への記入、海外旅行傷害保険の説明などを行います。説明会に出席できない場合は必ず事前に申し出てください。
第3回説明会については、後日改めてお知らせします。
短 信
インテンシブコース研修開講
今年も税関職員ロシア語研修講座が開講します。期間は1月8日から3月6日まで、研修生は函館税関から5名、長崎税関から1名、合計6名の皆さんです。
研修中は一般的なロシア語のほか、専門的な税関ロシア語、ロシア経済・ロシア地理・ロシア文化などを学びます。
また、ロシア語弁論大会やロシアの伝統行事マースレニッツァにも参加します。
学生からの投稿
留学を終えて ロシア地域学科3年 小林 真実
おととしの春に2ヶ月間留学に行きましたが、今回は秋から冬にかけての3ヶ月間ということで、2度目にもかかわらず、かなりの不安がありました。特に心配していたのがウラジオストクの寒さです。11月頃で、真冬の函館並みと聞いて、期間を短くしたいと思ったほどです。しかし、実際現地に着いてみると、晴天の日が多く、9月から10月の初めは、日差しが暑いくらいで、11月になっても雨や雪はほとんどなく、毎日本当に良いお天気で、風も想像してたほど強くなく、気温がマイナスの日でも体感気温はもっと暖かく感じられました。
今回は2度目で、前回よりも長くいるということで、現地でタオルや食器、床に敷くマットなどを買ってみたり日用品もほとんど現地でそろえました。
そして、今回は「ロシアで節約」をテーマに生活してみました。バスの料金がとても安いので、地図や、現地で見るCMや新聞広告で見つけたお店に何度か足を運んで商品の価値を調べて、買う物によって行く店を使い分けたりしていました。
銀行も町を歩いている時にいろいろ調べ、一番レートのよさそうなところを見つけて両替していました。
現地に長くいる人たちに聞くのが一番早くて確かで楽かもしれないけれど、1人で街をあちこち探検するのもオススメです。
ロシア地域学科3年 小松 太
9月13日から12月6日にかけて、留学実習が行われました。今回の実習で、色々な事を体験できたと思います。正直言って、最初は「うまくやれるだろうか」と思っていたのですが、その不安は、時間が経つにつれ解消していきました。
今回、初めての1人暮らし、そしてほぼ初めてに近い家事、初めてのウラジオストクなど、初めてづくしでした。
見学プログラムでは、ウラジオの名所を見学したのですが、どれもこれも新鮮なものばかりで、特に印象に残っているのは、夕陽に照らされた金角湾を展望台の上から見たことです。すごくキレイだったことを覚えています。
留学に行ってから、正直言って寂しくなる(日本が恋しくなる)と思っていたのですが、多くの日本人や同じクラスの友達と知り合うことが出来たので、本当に良かったと思いました。また彼らと出会ったことは、僕にとって大変良い刺激になりました。この期間では、様々な行事があり、とても有意義に過ごせたと思います。10月には体育祭、11月には日・韓・中の3カ国が、それぞれの伝統・文化を披露し合う国際文化の日などがあり、非常に楽しかったです。
そして、何より印象に残っているのは、コンサートでロシア語の歌を歌ったことです(自慢話で申し訳ありませんが)。実はこの話を聞いた時、最初はためらっていたのですが、良い経験になると思い参加しました。何しろ初体験だったので、キンチョーしまくりだったのを覚えています。今では良い思い出のひとつです。
勉強面は、教師陣の熱意ある授業のおかげで、ロシア語の意欲向上に大いに役立ったと思います(自分にとって、少し難しかったのですが)。
実は留学に行く前に、過去に行かれた方々の体験記を読んでから行ったのですが、ほとんどの人が「あっという間だった」と書いてあったのを見て、ホントだろうかと思ったのですが、ホントにそう感じました。
今回の留学は、僕にとって、良い経験を味わったと思いました。帰る2日前に、パスポートを紛失したこと(敢えて書きません。結局は見つかったのですが)以外は、非常に有意義な3ヶ月間だったと思います。
最後にこのような機会を与えてくれた学校とウラジオストクに、この場を借りて感謝いたします。
函館日ロ親善協会からのお知らせ
10~12月の主な活動実績
○ 10月14日(日)
市内の国際交流団体による「第3回地球祭」に当協会の紹介ブースを設置。多くの市民が訪れました。
○ 10月22日(月)
極東大学本学より5名の留学生を函館校に迎えました。実行委員会主催の歓迎会・送別会に倉崎会長・松本専務理事が出席しました。
○ 11月10日(土)
「第10回はこだてロシアまつり」国際情勢講演会後援 演題「私のロシア-ユーラシア大陸の悠久の歴史からロシア大統領選挙まで」
講師 元在ウズベキスタン・タジキスタン特命全権大使 河東 哲夫氏
○ 12月14日(金)
・函館日ロ親善協会記念講演会開催
演題「現代のロ日関係“ロ日経済貿易関係について”」
講師 在札幌ロシア連邦総領事館函
館事務所所長 領事参事官 ブロワレツ・アンドレイ 氏
・クリスマスパーティー開催
出席:在函ロシア・ウクライナ人17名、会員ほか42名
会場:函館国際ホテル
ブロワレツ所長ご夫妻、極東大学函館校教員ほか在函のロシア・ウクライナの方々をお招きし、恒例の親睦パーティーを開催しました。
当日は、初参加の方々からスピーチをいただき、ユジノサハリンスク記念訪問の映像やビンゴを楽しみ、たいへん和やかな雰囲気となりました。恒例のサンタクロースと雪娘も登場し、会場を大いに沸かせました。
≪係りより≫
明けましておめでとうございます。皆さん良い年をお迎えのことと思います。
「ミリオン・ズビョースト」54号をお届けします。次号の発行予定は、4月10日です。原稿をお待ちいたしております。(小笠原)