イルクーツク主義者の話
ロシア極東国立総合大学函館校 講師 デルカーチ・フョードル
バイカル湖の西端にあるスリュジャンカ駅から出発して、峠を越えようと、ゆっくり回りながら山へ上っている「ロシア号」。20分ほど前に離れたはずのバイカルはまた何度も窓に現れる。金色になりかけている八月終わりのタイガとコントラストする湖のブルーには夕日が映っている。峠を越えると、太陽が山の向こう側に隠れて、すぐに暗くなる。森は鉄道に近く、目の前に終わりのない壁のように立っている。一時間近くたってはじめて人間の存在は感じられる。あちこちに小さな村や市民のダーチャ地帯が見えてくる。そして、暗闇の中に道路を走る車のライトを見て「ああ、着いたぞ。町だ」と思って、なんだかどきどきする。それは、ウラジオストクから3日間「ガタンゴトン」しか聞こえなく、列車の中に体がだらだらになって、宇宙ステーションから帰った宇宙飛行士のように、また赤ちゃんみたいに歩きを習わなければならないからだ。
シベリア鉄道でイルクーツクへ行く人は、みんな同じような気分を味わうだろう。町に着く時はもう真夜中で、長い旅が終わって疲れて、家やホテルに着いて、すぐにぐっすり眠ってしまう。そして、朝起きて「イルクーツクに着いたね」初めて実感する。イルクーツクはそういう風に人を迎える。
1661年、この地に着いたコサック部隊はイルクット川がアンガラ川に注ぎ込む場所で要塞を立てた。バイカルの周りにすんでいるブリャート民族のことをロシア語の発音にあわせて「ブラート(兄弟)民族」と呼んだ300年以上前から共存の歴史がさかのぼっている。中国からヨーロッパまで延びた紅茶を運ぶティーロード拠点であったイルクーツクは、その創立からたった25年で「市」のランクを与えられた。アジアとの貿易を目指していたエカテリーナ2世の命令で、日本語を教える「航海学校」は1754年に、ここへ移動された。
300年の歴史を持つイルクーツクはシベリアでもっともきれいな町の一つとして知られ、ある日本のガイドブックに「シベリアのパリ」とも呼ばれている。とはいえ、市内にある建築の三分の一は木造である。100~200年前の民家を飾るレースのような木彫り、空をさしている教会の屋根、にぎやかな市場、静かで美しい河岸通り、市民に愛されている4つの劇場、長い歴史を誇る数ヶ所の大学などは、イルクーツクの独特な雰囲気を作り上げる。
文章を終わるのはあまり得意ではないが、まとめの代わりに、「イルクーツクへ行っていなければ、シベリアも見なかった」といっても言い過ぎではないと思う。イルクーツクに乾杯!
寄稿
ロシア語科2年生の嶋原健さんが、4月8日から5月3日まで行われたウラジオストク留学実習の感想を寄せてくれました。
ウラジオ滞在反省記 嶋原 健
行きは意気込んでいた。帰りはしょげ込んでいた。
明るい夜に、ウラジオストク空港に着いた。ロシアを感ずる荘厳な気配である。直立不動の管制官が、物々しい入国審査が、送迎車内から見える風景のすべてが静寂である。昼の市街地は、しかしまったく賑々しい。というよりも、行き交う車の量がハンパではない。排気ガスによるものか、特有の煙っぽさには辟易した。廃車同然の日本車ばかりが目に付いた。
はじめての外食に出かけた。棚にある食品名が分からなくて、「奥の」と言いたいのに、それが分からない。そういうもどかしさは、期間中、止めど無かった。
生活の中心を午前中の授業に据えた。会話と文法が1コマずつで、欠かさず出るようにした。特に文法の授業はロシア語でも完全に付いていけた。もっとも授業外でのロシア語はほぼ完全に聞き取れなかった。煩悶の日は続いた。
4月26日、私の誕生日に有志が集いパーティーを開いてくれた。例年なら同じ日に生まれたアウレリウスの箴言集を読み、乾杯、泥酔するというのは今作った嘘だが(私は泥酔はしない)、この意外だった歓待のおかげで私は存分に酔うことが出来た。
そうするうちに、後半を意識し出した。ロシア語にも慣れてきた。皆目聞き取れないということに慣れてきた。帰国時の新潟空港で、Aは「かなり聞き取れるようになった」と言い、Bは「また行きたい」と言うのを聞いた。私はそのどちらでもなかった。だが、そう言うAはウラジオストクに幻滅を抱き、Bはロシア語の勉強に悔恨を残していた。
この短い留学プログラムにおける成功とは何だろう。今思うに3週間程度で、語学力が飛躍的に向上するとは思えない。ロシアについての理解が180度変わるはずも無い。というとにべもないが、私は一期一会と言う言葉のもつ意味を意識化したい。私は、ロシア人との交流をあえて書かなかった。貴重な出会いに対する敬意が、自分に欠けていたことを戒めているからである。帰りの見送りの時、お世話になったジェーニャさんに「スパシーバ」と言えなかったことが、たぶん私にとってこの留学が不首尾に終わった最大の理由である。
前期試験
前期試験日程
今年度の前期試験、ザチョットは7月16日から7月20日、エグザメンは7月23日から8月2日に行われます。ザチョットは通常の時間割どおりに授業が行われ、試験日については各担当教授から指示があります。エグザメンについては補習・試験日程が掲示されますので掲示板で確認してください。
「海の日」は開校日
7月20日(金曜日)は暦の上では「海の日」の祭日になっていますが、ザチョット週間なので、開校日として通常どおり授業を行います。
替わりに試験週間の最終日に当たる8月3日(金曜日)を休日とします。
4~6月の行事報告
ロシア人墓地清掃作業実施
平成10年から函館校教職員を中心に実施しているロシア人墓地の清掃作業を今年も5月13日にサプリン総領事ご夫妻にもご参加いただき行いました。
船見町のロシア人墓地には、ロシア海軍の乗組員をはじめ、ロシア正教徒のお墓が約50あります。昨年、ロシア正教のアレクシー2世総主教聖下の来函とプーチン大統領の来日を記念して、ロシア外務省の手により門扉、柵の取り替えとプレートや花壇の設置などが行われましたが、今回は花壇への花植えと枯草集め、そして中央にある大きなシュエツ家のお墓の改修などを行いました。
今後とも草刈や花の手入れなどを続けて行きますので、学生をはじめ関係者の皆様のご協力をお願いいたします。
ロシア連邦名誉総領事大道寺小三郎氏 講演会開催
函館校では、函館日ロ親善協会、函館極東貿易協同組合、函館市との共催で、去る5月19日に「函館市地域国際化講演会」を開催しました。
講演会は、ご来賓のサプリン・ワシーリ駐札幌ロシア連邦総領事からのご挨拶の後、昨年12月に日本で初めてロシア連邦名誉領事に就任された大道寺小三郎みちのく銀行代表取締役会長から「21世紀の日本とロシア」をテーマにご講演をいただきました。
大道寺名誉領事は函館のご出身で、エネルギーをはじめ資源が豊富で教育水準が非常に高いロシアに自由主義経済が定着すれば短期間で経済が発展する可能性を秘めていることについて話され、日ロの民間交流を通じてロシアへの理解を高めることの重要性を強調されました。
これに先立ち大道寺名誉領事は、名誉領事の就任を記念して、ハリストス正教会にロシアを象徴するシラカバを植樹されました。
函館日ロ親善協会定期総会開催
5月19日に函館日ロ親善協会平成13年度定期総会が函館国際ホテルで開催されました。
日ロ親善協会は1989年に発足し、函館とロシアとの交流の活発化を願い活動しています。函館市は1992年にウラジオストク市と1997年にはユジノサハリンスク市と姉妹都市となり、両市との活発な交流が行われています。
姉妹都市の提携をきっかけに開校した函館校からは、既に100名を超える学生がウラジオストク市の本学附属ロシア語学校に留学実習のため1か月から3か月間滞在しロシアを実体験しており、本学附属東洋大学日本学部からもこれまでに30名近くの学生が函館青年会議所、法人会青年部、青色申告会青年部会、道南建設2世会、えぞ共和国から構成される実行委員会の招きで函館を訪れ1か月間の研修を受けています。
また、ユジノサハリンスクからは、日本とロシアの政府間協定に基づき設置された国際機関事務局である日露青年交流センターの招きで日本語を学ぶ学生たちが一昨年から函館校での研修を受けています。
このほか、函館市では青少年の交流をはじめ、文化・スポーツの交流が活発に行われており、函館日ロ親善協会もその一翼を担っています。
今年の総会では、平成12年度事業報告・収支決算および平成13年度事業計画・収支予算が審議されたほか、来年はウラジオストク市との姉妹都市10周年、ユジノサハリンスク市との姉妹都市5周年を迎えることから、記念事業を進めるための企画委員会を設置することになりました。また、昨年7月に極東国立総合大学の名誉博士号を授与された井上博司函館市長と昨年12月にロシア連邦名誉領事に就任された大道寺小三郎みちのく銀行会長に協会の顧問に就任いただくことになりました。
協会は現在、100を超える企業・団体・個人に参加いただいておりますが、入会を希望される方は、是非ご連絡ください。事務局は函館校です。
イリインカップ争奪チェス大会開催
函館校では、6月16日に第2回イリインカップ争奪チェス大会を開催しました。
チェスは知的スポーツとして世界中に愛好者がいますが、ロシアは世界チャンピオンを輩出するなどチェスが盛んな国です。函館校には9名のロシア人教員がおり、学生たちも教員から習って楽しんでいます。昨年開学した公立はこだて未来大学にはゲームの攻略法を数学的に探求するゲーム理論を専門とする研究室があり、昨年7月に極東大学函館校とはこだて未来大学との対抗戦として、函館校のイリイン・セルゲイ校長から寄贈されたイリインカップ争奪チェス大会を開催し、未来大学が勝利をおさめました。
第2回となる今年の大会には今年5月に発足した函館チェスクラブの会員も参加し、6名1チームで4チーム24名が参加してカップを争いました。
結果は、函館校チームが優勝し、未来大学チームが第2位でした。
函館チェスクラブでは初心者のための講座も開催しています。興味をお持ちの方は参加してみては?
連絡先:会 長 山田明弘氏 049‐3121
山越郡上八雲379℡01376‐3‐2846
事務局 高佐一義氏 042‐0915
函館市西旭岡町2-2-11 ℡50‐2558
サークル活動
新サークルも誕生
楽しみながらロシアの歌や踊りに親しむサークル「コール八幡坂」の今年度の活動が、1年生を新メンバーに迎え5月29日より始まりました。わが校のイベントには欠かせない存在となっているコール八幡坂の今年度最初のステージは、7月1日公立はこだて未来大学のコミュニケーションウィークのパーティーで、今年新しく取り組んだ3曲を披露し、好評を得ました。
また、6月17日にロシア言語文学科4年生の五嶋慶太くん率いる極東空手部が発足しました。毎週水曜日に3階講堂で稽古が行われています。興味のある学生は是非参加を。
ロシアクラブ
ロシアに親しむ夏休み
小学生・中学生・高校生を対象に、「2001夏 はこだてロシアクラブ」を夏休み中の8月6日から10日までの5日間開催します。時間は午前10時から11時50分。このクラブは、本校のロシア人教員が講師になって簡単なロシア語やロシアの歴史・文化などのお話をすることで、子供たちにロシアを理解し親しみを感じてもらおうと開かれるものです。
会場は函館校、受講料は無料です。お申込みは8月2日までに事務局へ、ただし定員の20名になり次第締め切らせていただきます。
夏季休業
今年度の夏季休業は8月6日(月)から9月14日(金)までです。休業中も平日は事務局や図書館などの利用は可能ですが、8月13、14,15日の3日間は事務局も休業となりますので留意してください。なお、後期授業は9月17日(月)からです。
図書館より
平成13年4月-6月の主な寄贈・購入図書と寄贈者は次の通りです。
- Английские народные сказки他38冊=大栗絵美さん寄贈
- 無名戦士の墓=河邨文一郎さん寄贈
- 講談社パックス英和・和英辞典他2冊=岩田英伸さん寄贈
- 詩集わたしのベラルーシ=アニケーエフ・セルゲイさん寄贈
- 二十世紀の精神の教訓他11冊=石田耕造さん寄贈
- 北海道とロシア極東=北海道総務部知事室国際課ロシア室寄贈
- カムチャツカの自然と街他12冊=鈴木旭さん寄贈
- 研究報告サハリン史研究の現状=板橋政樹さん寄贈
- シベリア抑留スターリンの捕虜たち=長勢了治さん寄贈
- imidas‘01=購入
- ロシア通になるための常識15章=宮下知子さん寄贈
- Все нормально; все хорошо=コーニェワ・スヴェトラーナさん寄贈
- お笑い外務省機密情報他7冊=種田貴司さん寄贈
- ロシア連邦の銀行制度研究=購入
- 函館市史通説編=購入
お知らせ
ミリオンズビョーストは、これまで函館校の学生・教職員・学校関係者への学報として年4回発行してきましたが、今号から函館日ロ親善協会の会員の皆様にもお送りすることになりました。
函館日ロ親善協会は昨年から事務局を本校におき、協会の活動を会員の皆さんにお知らせする会報の発行を企画してきましたが、函館校と協会が共同して行う事業も多く、記事が重複することから、ミリオンズビョーストに協会の会報としての役割を加えることになりました。
協会の会報としては未だ不充分とは思いますが、紙面の充実に向け努力してまいりますので、ご意見、ご要望をお寄せください。
なお、次回の発行は10月1日です。協会会員はじめ読者の皆さんからの投稿をお待ちしております。原稿は9月14日までにお送りください。