サンシャイン,アリゾナ
ロシア極東国立総合大学函館校 助教授 鳥飼 やよい
大雪となったあの入学式の日に始まった今学期も、いよいよ終わりに近づいてきました。一体夏は来る気があるのか?と言いたくなるような弱々しい陽射しが続いている今日この頃、夏休みという実感を今一つ持てないでいる人も多いことでしょう。
私が住んでいたアリゾナは太平洋をカリフォルニアのモハベ砂漠でブロックされた、更に奥にあるソノラ砂漠に位置し、7月の今頃は気温は優に105度(華氏)を超えるのが普通で、体温よりも温度の高い空気を口で吸い込みながら、蜃気楼で揺れている通りを溶けたアスファルトに足をとられつつ自転車で行けば、熱の塊となった空気が道を阻んで苦しいながらも気持ちよいその現実離れした暑さに喜びを覚えさえしたものです。
乾燥する土地なので汗はかかない代わり、水はほとんどバケツ単位で欲しくなります。アリゾナではアイスティーを庭先においたボトルで太陽の熱を利用して作り、それを“サンティー”と称して大量に飲みます。洗濯物は干せば10分で湿気は飛ぶし、身の回りのわずかな水分も見ている前で片っ端から蒸発して行きます。また白熱の太陽は肌や目を射し、不用意に外に出ると後悔することになります。アリゾナは皮膚ガンによる死亡率が全米一でもあります。
しかし、7月の中頃には短いモンスーン・シーズンが訪れて、夕方になると黒い雲が一瞬に空を覆い、雷を伴う強烈な夕立が降りしきり、路という路を川のような水で溢れさせて1時間ほどで止みます。この即席の川でカヌーを漕ぐ人もいれば溺れる人もいます。翌日は何事もなかったかのように川も干上がり炎熱地獄に逆戻りです。が、夕方になればまた嵐という繰り返しが約1週間続いた後、突然モンスーンは行ってしまいます。自然が持てるものすべてを見せてくれているようで、オアシスのようなこの季節を私はとても好きでした。
同じアパートの住人で、雨が降り出すと決まって外に出て雨に打たれながら、ずっと空を仰いでいる人がいました。とても心に残っている光景です。夏という季節は人間に自然の根元的な懐かしみというものを取り戻させてくれます。
話は変わって前回のロシア語の話ですが、“間違いを恐れずに”ということを強く言いたいのです。文法・発音など完全を目指して学んでいくのは当然のことですが、その形が完全でないうちにそれを使って表現すると言うのはおこがましくて、と尻込みをする人がいますが、完全になるのを待っていては一生ロシア語で話す機会は訪れないと思った方がよいでしょう。しかもたまに“通じた!”という喜び無しに外国語学習の喜びはどこにあるでしょうか?
と言うわけで、この夏休み、ロシア語を片隅に追いやることなく、機会をとらえてロシア的なものに触れてみてください。