No.3 1995.04"Миллион звезд" ミリオン・ズビョースト/百万の星

バリアーを越えて

ロシア極東国立総合大学函館校 助教授 鳥飼 やよい

函館にもそろそろ春がやってきました。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。2、3年生の皆さん、お帰りなさい。長い春休みの間にきっとロシア語が恋しくなってきていることでしょうが、はやる心をおさえてここでちょっとWarming upのつもりで、ロシア語を志していたという過去を持つ私の経験談をお聞きください。何かの役に立てればと思います。
まず一般論として成人の第二言語学習の成功にとって最も大切なことは、心理的障害を取り除くこと、動機を持つことの二点です。不安などの心理的バリアが低ければ低いほど、また動機が強ければ強いほど、学習が行われるのは実験により実証されていることです。つまり自意識がなくて、ロシア語で将来金儲けをしようと思っている人は、ただロシア語が好きで勉強している人よりも学習効果は高いと極言できるでしょう。
そして、まず大抵のロシア語学習者はこの後者の部類に入ります。私もそうでした。皆さんもそうではありませんか?若い頃は機械的な記憶作業に関しては有利な割には、自意識の高さが邪魔をするものです。私はロシア語を始めて丸6年になりますが、英語を始めて6年経っていた高校卒業当時の私の英語力と較べると、コミュニケーションスキルという点では今のロシア語の方が数段上だといえます。年齢が手伝ったこともありましたが、元来は、非常にガードが固く自意識の強い私も、しかしロシア語の学習3年半目にしてそれを捨てざるを得ない事情ができたのです。
というのも、ロシア人の両親の元に生まれたアメリカ市民や、ポーランド移民の子や、ロシアでビジネスチャンスをつかんでいて、既にべらべらと当たり前のようにロシア語を話している人々が、クラスメートとして堂々と席を並べ、同じスタンダードで評価を受ける側に立つことになったのです。
劣等感なんてものはもう、全然出る幕もありませんでした。それまでの真面目な文法学習の成果をもってしても、普通にやっていたら全然歯が立たないので、何とか私は彼らの揚げ足を取ろうとか、すごく印象的なことを一言言おうとか、要所要所で少しずつ点を稼ごうとしたのでした。
少なくとも、必死ではあったし、そこに自意識の立ち入るすきはありません。象に向かって吠えている蚊のような気がしていましたが、少なくとも吠えることは蚊にとっては気持ちのいいことですし、気持ちのいいことは嫌でなくなるものです。おまけにこういう方法は頭を実際より良く見せると言う効果もあって、結構楽しめました。
そしてその3年後に、ロシア語に関する心理的バリアーがきれいさっぱりなくなっていた私にとって、もう一つ欠けていた動機づけというにはうってつけのチャンスが巡ってくるのですが、それについては次号でお話します。
それではGood Luck:Talk to you later.