英語とロシア語の関係
一般向け文化講座「はこだてベリョースカクラブ」の今年度第4回目の講話内容です。
テーマ:英語とロシア語の関係
講 師:鳥飼 やよい(准教授)
※以下の講座内容は、担当講師の鳥飼やよい准教授がまとめました。
英語とロシア語は聞いても見てもほとんど似たところのなさそうな言語ですが、遠く遡れば印欧語プロトタイプに辿り着く同族の言語でした。そんな英語とロシア語について、今日は主に比較の観点からお話ししたいと思います。
まずは一般的な比較ですが、英語の母国語人口は中国語・スペイン語に次いで世界第3位の3.1億人、一方、ロシア語は第8位の1.5億人です。ちなみに日本語はロシア語に次ぐ1.25億人です。ネット上の情報の言語では英語が第1位で52.9%を占めていることは不思議でないとして、ロシア語がドイツ語に次いで第3位であることは少し意外かもしれません(それぞれ6.1%と6.3%)。ちなみに日本語は3.8%で7位です。日本ではネット上で無料で本が読める青空文庫が誕生したのが1997年でロシアの同様の電子図書館が生まれたのが1994年であることから、デジタル化への希求の度合いの数年の差からこうした数字に現れたということかもしれません。
英語は語彙数約100万とされていますが、ロシア語は意外に少なく約20万語です。ドイツ語やフランス語等のその他のヨーロッパ言語でも20~30万語であることからすると英語の豊富さは群を抜いています。これは歴史を通じて、すでに多様な言語を有していたヨーロッパ大陸との人的移動、外敵からの襲来、宗教や文化の普及等のまさに中心にあったため外部との接触を繰り返し拡大発展してきた英語と、比較的平地で広大な遠隔の地で発展したロシア語の違いと言えるかもしれません。
次にアメリカにおけるロシア語話者についてもお話しますが、移民の国であるアメリカですがロシア語話者は約90万人で、彼らが最も多く住むのはニューヨークでもシカゴでもなくアラスカ州です。これはアラスカが1867年までロシア領であったことにも関係しているようです。ロシアにある約1100のほぼすべての大学で英語を学ぶことはできますが、アメリカでは約4000校あるといわれる大学のうちロシア語の学位を授けている又はロシア語を勉強できるのは116校といわれています。米国でも学習者人口が決して多くはないロシア語ですが、それにはロシア語の難易度の高さも関係しているかもしれません。英語話者にとって最高難度の第4カテゴリーに分類されているのはアラビア語、中国語、朝鮮語、日本語などですが、ロシア語はヒンディー語やタイ語と並び第3カテゴリーに分類されています。
ここからは学習者の視点から英語とロシア語の違いの主要部分をお話しします。
まず英語表記には26文字のアルファベットを用いますが、ロシア語は発音記号も含む33文字から成るキリル文字を用います。ロシア語は母音が10であるのに対し、英語には短母音、長母音、二重母音で合計17の母音があります。ロシア語には名詞に性があって英語にはありません。ただしその振り分けがランダムな(に思える)他の言語とは異なり、ロシア語は語尾で男性、女性、中性が判断できます。同じ家族でも苗字が男性と女性では語尾が異なるので、アンナ・カレーニナの夫と息子はカレーニンさんで、プーチン大統領の娘さんはプーチナさんということになります。
ロシア語は屈折語と分類され、文中における働きを示すマーカーが語尾に付くため(格変化)、文中で語の位置が変わっても文意は変わりません。例えば、英語の場合は、John loves Mary とMary loves Johnでは文意が異なりますが、ロシア語ではИван любит Машу とМаша любит Иванаはニュアンスは変わりますが文意は同じです。英語も遡れば屈折語で名詞の格変化があったそうですが、現在はI-my-me, he-his-himのように代名詞の中に残るのみとなりました。
次に、時制について。ロシア語には過去・現在・未来の3つしかありませんが、英語には過去・現在・未来の3つの基本時制に加えてそれぞれに進行形、完了形、完了進行形が展開するので、合計12の時制があることになります。ロシア語では英語とは異なった時間の捉え方になりますが、それぞれの動作をプロセスか結果かで区別する「体」(アスペクト)があるため、過去から未来まで、1年365日一日24時間を過不足なく表現できるのです。
英語とロシア語の違いは他にも多くありますが、英語を勉強し、その後英語でロシア語を勉強した私は、日本語からのそれぞれの言語への距離よりも、英語とロシア語間の距離の方が断然近いと常に感じていました。その感覚で捉えた英語とロシア語の近さ、共通点などについては、また次の機会にでもお話しできたらと思います。ありがとうございました。