極東の窓

ロシア極東連邦総合大学函館校がお送りする極東情報満載のページ。
函館から、ウラジオストクから、様々な書き手がお届けします。

バイカル民話集1 象の鼻岩

 11月10日(土)に行われる2007はこだてロシアまつりのテーマは「ロシア民話の世界~とある見知らぬ路で」に決まりました。
 それにちなみ、函館校の通訳・翻訳サークル「訳者小屋」が翻訳したバイカル民話を5回に渡り、お届けします。
 「訳者小屋」は平成17年12月に発足、ロシア語力向上を目指し、さまざまなボランティア通訳・翻訳、観光ガイドなどを行っています。
 この民話集は、バイカル湖をテーマにした昨年のロシアまつりのために翻訳されたもので、まつり当日は読み聞かせも行い、大変好評でした。翻訳者の所属は昨年時のものです。
 それでは奥深いロシア民話の世界をお楽しみください。
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象の鼻岩
Скала-хобот

 昔々、聖なる海、バイカル湖の岸辺には、とても暖かな時代がありました。大きな見たこともない木々が空高く生い茂り、今の動物たちより、ずっと、ずっと大きな動物が棲んでいました。面白い形の角をした大きなサイや剣のように鋭くて長い牙をもった虎や洞窟に棲む大きなクマもいましたし、とてつもなく大きな毛むくじゃらのマンモスがいました。マンモスの長いラッパのような鳴き声は山を振るわせるほどでした。マンモスは地上のすべての動物の中で、一番、大きくて力強いと思われていました。けれど、マンモスはとても性格が優しく、おとなしい動物でした。
 しかし、バイカル湖の近くに棲んでいる中で、一頭だけ、怒りっぽく、とてもわがままで頑固なマンモスが、おりました。いつも、1人ぼっちで、通り道で他の誰かに出会っても、鼻高々と偉そうにしては、相手をいじめていました。
 小さい動物たちを長い鼻でつかまえて、茂みの中へほうり投げました。大きな動物たちには、太い牙で、ひっかけて持ち上げて、地面にたたきつけました。うぬぼれマンモスは、気晴らしのため大きな木の根っこを掘りました。また、大きな丸い石を引き抜いてバイカル湖へ流れる小川をせき止めたりもしました。
 マンモスの長老は、何度もうぬぼれマンモスを説得しようとしました。
「いいか、考え直すのだ、強情者め!弱い動物たちをいじめちゃいかん!訳もなく木を引っこ抜くな、小川をふさぐな、そんなことをしていると、今にバチが当たるぞ!」
 うぬぼれマンモスは、長老マンモスの話を聞いてはいましたが、全然、言う事を聞かず、自分の好き勝手にし続けていました。
 ある日のことです。うぬぼれマンモスは全くいい気になって歯止めが効かなくなってしまいました。
「オレ様にツベコベ言うな!」 長老マンモスに怒鳴りだしました。
「オレ様をおどすな、オレ様はマンモスの中で一番強いのだ。やってみろというなら、小川だけでなく、バイカル湖も水たまりのように石で埋めてやるぞ」
 長老マンモスは、ぞっとしました。他のマンモスたちも興奮してうぬぼれマンモスへ、いっせいに鼻をブンブン振り始めました。
 この様子を見ていたバイカル湖が荒れだしました。大きな波が岸に打ち寄せました。波には、神様の、さあ、こらしめてやるぞ、という恐ろしい微笑みが満ちていました。
 けれど、我を失ったうぬぼれマンモスは、そんなことには全く気付きませんでした。勢いよく走って、大きな岩に自分の牙を突き刺しました。湖の中へ投げるために持ち上げたのです。しかし、突然大きな岩は、重く重くなりました。あまりの重さに、牙にメリメリとヒビが入り、とうとう牙はボキリと折れてバイカル湖の中へ岩もろとも落ちてしまいました。うぬぼれマンモスは牙を失ったのが悲しくて大声で鳴きました。自分の折れた牙を取り戻すために水の中へ長い鼻をのばしました。その時です。バイカル湖の神様は、うぬぼれマンモスを石に変身させてしまいました。
 それ以来、バイカル湖の岸辺には巨大な岩がそびえ立っています。岩は、象の鼻のような形で水面の上に垂れ下がっています。今、人々は、その岩を「象の鼻岩」と呼んでいます。

訳:ロシア極東国立総合大学函館校

ロシア地域学科1年 佐藤 輪太郎