ペテルブルク・モスクワ旅行記3
<3日目>
昨日に引き続き時差ボケで、また朝早く目が覚めてしまった。ホテル内の24時間スーパーはアルコール売り場が閉鎖されている以外は、何でも売っている。そこで水を買い、ホテル周辺を散歩する。
アレクサンドル・ネフスキー大修道院の手前には、向かって右側にチフヴィン墓地、左側にラザレフ墓地がある。ただの墓地とあなどってはいけない。彫刻博物館のようになっていて、外国人は300ルーブルのチケットを買って入るのだ。私はチフヴィン墓地に入ってみた。
さほど広くはないが、ほとんどの墓碑が胸像や美しい彫刻でできており、見ごたえがある。しかも埋葬されている人がすごい。ドストエフスキー、リムスキー=コルサコフ、ムゾルグスキー、ルビンシテインなど、我々もよく知る18~19世紀に活躍した文化人の墓が並ぶ。
中でもひときわ大きく、目を引くのがチャイコフスキーの墓である。胸像に二人の天使が寄り添い、一つのモニュメントとなっている。
さて、この日は月曜日、サンクトペテルブルク国立大学の学生有志と函館校の学生で交流をした。夏休み中ということで学内には入れなかったので、ロシア版フェイスブックVKで日本語を勉強している学生を募ったところ、5人の学生が集まってくれた。
私は前の晩、事前に情報を得ていたうちの一人、ウラジオストクの極東連邦総合大学出身で現在ペテルブルク大学東洋学部の大学院に在籍するエカテリーナさんに電話をしていた。私たちがペテルブルクに無事着いていること、明日みなさんとお会いできるのを楽しみにしていること。彼女はとても上手な日本語で、私たちも楽しみに待っていると言ってくれた。
ペテルブルク大学は宮殿広場からネヴァ川をはさんだ西側に位置する。待ち合わせ場所である大学前まで、前日にガイドのリーヤさんから教えてもらったとおりバスで移動する。バスはホテル前からネフスキー大通りをまっすぐ走る。ロシア人の乗客はICカードをかざして席に着くが、私たちはカードを持ち合わせていない。どうしようかと車内を見回すと、車掌のおばさんが近づいてきたので、一人30ルーブルでチケットを買う。
車掌さんに地図を見せて、ここに行きたいがどこで降りたらいいかと尋ねると、字が小さくて見えないと言って、そばにいた若い女性客にどこの場所を指しているか確認してくれた上で、そのバス停が来たら教えてやる、と言う。笑わないけど親切だ。バスは次の停留所を一度しかアナウンスしないので、耳をそばだてる。席に座っている車掌に次か?と目で合図をすると、そうだ、とうなずいた。おかげで無事降りることができた。
この日は朝から冷たい雨であった。私たちは10時の待ち合わせに30分も遅れてしまったが、男子はロス、イゴーリの2人、女子はエカテリーナ、ヤーナ、クリスティーナの3人、計5人の学生が私たちを待っていてくれた。うちの学生は日本語とロシア語の名刺を渡して、お互い自己紹介した。聞けば、集まってくれた5人はみな東洋学部の学生または大学院生であるが、お互いにはあまり面識はなく、日本人学生とお話しできるという興味でそれぞれ集まってくれたのだそう。
ペテルブルク大学の日本語教育はモスクワ大学、極東大学と並んで大変歴史があり優秀とされるが、5人の学生はみな日本に留学経験がある、またはこれから日本に留学するというだけあり、日本語は本当に上手であった。しかも、留学先は東大、阪大、法政大など有名大学ばかりである。
エカテリーナさんは極東大学出身ということで、昨年本学から函館校の教員になったスレイメノヴァ・アイーダ先生に教わっていたそうである。函館校の卒業生で、おととしまで本学で日本語教師をしていた小早川さんのこともよく知っており、懐かしんでくれた。帰国後、アイーダ先生にその話をしたところ、彼女は日本語弁論大会の手伝いをしてくれて、いい学生だったということだ。遠いペテルブルクの地で縁のある人に出会えてとても嬉しい。
街歩きをすることにして、まずは宮殿広場を横切り、ネフスキー大通りにある大型書店ドム・クニーギに連れて行ってもらう。ここは1904年に建てられたモダン建築で、元はシンガー社の建物であった。重厚な造り、外壁には美しい装飾がほどこされ、中には向かいのカザン聖堂が一望できるカフェもある。ロシアの学生たちに手伝ってもらい、お土産にするポストカードやしおり、ロシア語の勉強に使う本などをたくさん買うことができた。
ソビエトカフェ“Дачники(ダーチニキ)”で昼食をとる。ソビエトカフェというのはソ連時代の内装をしたお店で、ちょっと古くさい感じがして、ソ連を知らない若い世代に人気があるようだ。ウハー(魚のスープ)、ブリヌィ(ロシア風クレープ)、スィールニキ(チーズの焼き菓子)など、それぞれおすすめのロシア料理を注文する。
まだお互いになんとなく硬かったのだけれど、日本の好きな作家やアニメ、映画の話をし始めると、だんだん盛り上がっていった。驚いたのは、日本の小説でも夏目漱石や芥川龍之介、村上春樹はもちろん、湊かなえやうちの学生も知らないような現代の作品をネットで購入して読んだり、映画も古い物から最近のものまでたくさん見ているということであった。とにかく日本が好きで、寝る間も惜しんで勉強や情報収集をしているということがよくわかり、うちの学生たちは大いに刺激を受けたようである。
その場で日本の学生からは日本で買ってきたお菓子をプレゼントした。私は日本手ぬぐいや、女子にはシート型のフェイスパック(とても喜ばれる)、男子には消せるボールペン(これも喜ばれる)とロシア語版の函館の観光パンフレットを用意していった。日本に来たら、函館にも遊びに来てくださいと言ったら、みんな熱心に読んでくれた。
食事の後は血の上の救世主教会を見学した。ペテルブルクでは外せない観光地であるが、「おどろおどろしい名前とけばけばしい外観の教会」というのは私の先入観であった。ネフスキー大通りから先ほどのドム・クニーギの角を入ると、グリボエードフ運河沿いに荘厳な教会が姿を現し、どっしりとしたたたずまいに感動する。天気が悪かったからかもしれないが、写真で見たようなけばけばしさはなく、近くで見ると繊細な造りに驚く。
250ルーブルのチケットを買って中に入ると、壁から天井までブルーを色調に全面埋め尽くされたイコンは、書かれたものではなくなんとモザイクでできている!中に入った瞬間に背中をのけぞらせて圧倒されてしまうほど。何から何まで壮大である。
次にイサク聖堂に向かう。世界で最も大きな教会建築の一つとされ、天気がいいとドーム屋根の展望台に上り、ペテルブルク市内を一望できるそうだ。残念なことに、尖塔の部分は改修工事中のため、シートで覆われていた。
ここも250ルーブルを支払って中に入る。柱も太く、とにかく大きい。内装は血の上の救世主教会とはまた違う雰囲気で、美術館か宮殿のようなキンキラキンの壁画がびっしり描かれている。ロシア人学生にどちらの教会が好きですか?と聞かれたが、私は血の上の教会のほうが、ロシア正教独特の感じがして好きかな。
16時、聖堂を出ると雨も風も激しさを増し、傘を差すのもやっとの悪天候。もう少し街歩きをしたかったが断念して、最寄りの地下鉄駅まで送ってもらう。
夏休み中にわざわざ私たちのために集まってくれて、案内してくれてありがとうございました。みなさんも日本の学生との交流を楽しんでくれたら、とても嬉しいです。みんなで記念撮影して解散。
そして私たちは知人に案内された夕食のレストランまで地下鉄で移動することに。ペテルブルクの地下鉄で使えるジェトンというメトロコインは旅行代理店から一人5枚プレゼントされていた。自動改札機に1枚投入するとゲートが開く仕組みで、ロシアの地下鉄初体験。ホームが地下深いところにあるため、長い長いエスカレーターに乗らなければいけないが、列車は次々に走っているので待ち時間も少なく快適である。
約束の時間まで少し間があったので散歩していたら、ハチミツの屋台を発見。アカシヤや蕎麦、菩提樹などのハチミツをおばさんがあれこれ味見させてくれるので、気に入ったものを500g単位の量り売りで買うことができる。ロシアのハチミツはまろやかで味も濃くておいしく、ちょっと重たいけれど日本へのお土産にするのもおすすめです。