極東の窓

ロシア極東連邦総合大学函館校がお送りする極東情報満載のページ。
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ロシアのチンピラ文化

はこだてベリョースカクラブ

一般向け文化講座「はこだてベリョースカクラブ」の今年度第1回目の講話内容です。
テーマ:ロシアのチンピラ文化
講 師:デルカーチ・フョードル(副校長)

皆さんは「任侠映画」は好きですか?日本の映画で、一定層に人気がありますよね。任侠でなくとも、「悪者」に視点を当てたお話があると思います。ロシアにもコミカルなものから、シリアスなものまであり、人気があります。今日はそんなロシアの悪者、チンピラ文化に着目してお話ししましょう。
さて、このロシアのチンピラ文化を語る上で話さなくてはいけないものが「パツァーン」です。パツァーンとは、広い意味ではただ「ガキ、小僧」を指し示す俗語で、男の子同士はよくお互いに使う呼び方です。しかし、狭い意味では、若者の暴力団・ギャングを意味すると言ってもいいでしょう。「パツァーン」の言葉の起源にはいくつかありますが、1920年代になって出来たとされ、広まっていきました。特にオデッサやロストフ、ペテルブルクで犯罪世界の独特な裏文化は発展し、パツァーンたちもマフィアの青年部として生まれました。オデッサは港町でいろいろな人が出入りし、犯罪が増えたのでしょう。逸話として、オデッサ発のロストフ行きの汽車のアナウンスでは、「降りる前には手荷物やポケットの中をご確認ください」と言われていたそうです。
ソ連時代には、少年犯罪が減りましたが、無くなった訳ではありません。強盗や通り魔等の暴力行為を行っていました。中でも、1970~80年代のカザンでは、暴力をふるう少年犯罪が多く発生し、喧嘩するだけでなく、刃物や銃器を使うなど問題になっていました。
このカザンを舞台にしたドラマが、昨年ロシア国内で流行りました。タイトルは『パツァーンの約束』です。音楽学校で学ぶ14歳のアンドレイが主人公で、路上で喧嘩するティーンエイジャーと出会い、友達になります。このティーンエイジャーがギャング『パツァーン』です。彼らが縄張りをめぐって戦い、法律や約束を破ります。彼らにとって大切なのは、彼らの中の掟なのです。
このストーリーも面白いですが、注目すべき点は、この掟が実際にソ連時代あったことです。
 ① 喧嘩は絶対1対1。倒れた人は殴るな。
 ② 大人に絶対に言うな。
 ③ 言葉に気をつけろ。もし文句があるなら、密告ではなく、みんなの前で言え。
  自分の言葉に責任を持て。
90年代になると、組織犯罪は減りました。この掟は破られ、個で動くティーンエイジャーの力が強くなり、言葉は悪くなり、残酷で冷酷な行動を起こすようになりました。
しかし、現在のロシア国内での少年犯罪は減少傾向にあります。皆、インターネットに夢中で、喧嘩などの対面で起こる事件は減っているのです。時代ですね。