ロシアの子ども向けテレビ番組『エララーシュ』
一般向け文化講座「はこだてベリョースカクラブ」の今年度第5回目の講話内容です。
テーマ:ロシアの子ども向けテレビ向け番組『エララーシュ』
講 師:イリイン・ロマン(准教授)
最近皆さんはテレビを見ますか?ロシアでは来年、番組制作50周年を迎える長寿テレビ番組があります。お馴染みと言われるような長寿テレビ番組は日本にもいくつかありますよね。あまり見たことが無くても、また最近は見ていなくても、そのBGMは聞いたことがあるというものもあるかもしれません。今日お話しする、ロシアのテレビ番組は「子供向け」です。私も子どもの頃、この番組を見て育ちました。オープニングが聞こえてくるとテレビの前に走ったものです。今聞いても懐かしい気持ちになります。ロシア人で知らない人はいないと思います。
この番組の名前は『エララーシュ(Ералаш)』。日本語に訳すると『ごちゃごちゃ』という意味が妥当かと思います。番組が製作された1970年代初めは、子供向けの番組はありませんでした。大人向けの娯楽番組、ニュース番組で構成されていたと思います。中でも大人向けの番組『フィティーリ(Фитиль)』は、賄賂、横領、お酒、官僚主義などの国の生活における否定的なものをネタにし、1962年から1995年にかけて、上映前の映画館で放映されました。この風刺番組が人気だったため、当時の監督がソビエト連邦共産中央委員会に子ども向け風刺番組を作成する提案をし、認められました。
『フィティーリ』同様、『エララーシュ』もテレビ放送ではなく、1974年に映画の上映前に放映されるところから始まりました。3つの短いエピソードで構成され、テレビ放送になったあとも3つ、もしくは4つで一つの番組として放送されました。
登場する子どもたちは、オーディションで選ばれました。今でいう芸能事務所に所属する『子役』を使っているのではなく、この番組のみの出演です。
ではまず1974年に放送されたエピソードを見てみましょう。タイトルは『英語のお勉強』です。
※タイトルの太字をクリックすると番組公式YouTubeで見ることができます。
場面は、男の子が自宅でレコードを使って英語の課題文を繰り返し聞いているところから始まります。しかし、おやつにプルーンのような果物を食べながらしています。あまり集中していないようで、果物の種を飛ばして遊びます。何度も繰り返しレコードを流し、男の子もそれに合わせて繰り返しますが、全く発音できていません。そのうちに、男の隣にいるペットの九官鳥が英語の課題文をしゃべり始めます。男の子は驚いて、友人に鳥が英語を話せるようになったと電話をします。すると、「僕の犬も英語を話せるようになった」と答えます。
次に1980年代に放送された『チェスの世界』という回をお見せします。
場面は、公園で男の子がベンチで犬とチェスをしています。犬が器用に駒を動かします。それを見た、通りすがりの女の子が「賢い犬ね!」と言います。すると男の子は「全然賢くないよ。僕が3-1で勝っているんだから。」と答えます。
番組放送当初は、滑稽でありつつ、教訓のような内容で、「あぁ、悪いことをしたなぁ」と反省を促す、道徳的エピソードでしたが、徐々にジョークしかない小話が多くなりました。『チェスの世界』には、まったく教訓はありませんね。
90年代はどうでしょうか。『ソレについて(Про это)』を見てみましょう。
場面は、学校です。怖い先生が教室に入ってきます。今日は試験のようです。子どもたちは、あの手この手でカンニングをします。先生はそれを見つけては静かに対処します。
これはロシア語が分からなくても、内容を理解することができると思いますので、皆さん見てみてください。
何が良くて、何が悪いのか、善悪の判断は大事です。それを子どもたちが自らできるようになること、それはいつの時代も必要なことです。この子ども向け番組は、ユーモアと風刺を交えて伝えているのです。アネクドートというジョークの好きなロシア人の価値観が少しでも伝わっていれば幸いです。