極東の窓

ロシア極東連邦総合大学函館校がお送りする極東情報満載のページ。
函館から、ウラジオストクから、様々な書き手がお届けします。

新宿中村屋とロシア

 私が新宿中村屋と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、インドカリーである。創業者である相馬愛蔵・黒光夫妻は日本に亡命したインド独立運動の志士・ボースを保護し、彼は後に夫妻の長女と結婚した。中村屋のカリーはボースが伝えたもの、だから「恋と革命の味」なのである。
私がそのエピソードを知ったのは、学生の頃、国文学講義の時間だった。新宿中村屋は芸術家を育てるサロンとして、多くの人々が集まる文化の発信地だったという。
 また、偶然だがその頃、年末年始になると私はデパート地下の和菓子売り場でアルバイトをしており、新宿中村屋の商品を売っていた。講義で聞いたことを思い出し、創業者やサロンにまつわる人物の名前がついた商品を面白いと感じていた。そしていつか、新宿の本店でインドカリーを食べてみたい、と憧れていた。
それは社会人になり、東京に出張した際、ついにかなえられた。テーブルに着くと、カリーの説明が書かれたメニューを見て、思いを膨らませながら待った。チキンレッグがごろんと入ったカリーが運ばれてきて、これが恋と革命の味か!と感激しながら食べた。おいしかった。
 不覚にも、その中村屋がロシアとも関わりがあると知ったのは、それから10年以上経った頃のことだ。ロシアの盲目の詩人、ワシリー・エロシェンコの研究をしているアニケーエフ教頭の調べ物を手伝っていたとき、私は再び中村屋に出会った。エロシェンコも中村屋サロンの一員だったのだ。相馬黒光はロシア文学を愛し、ロシア語が堪能だったとか。しかも、中村屋のレストランの制服はロシアの民族衣装・ルバーシカであり、エロシェンコ直伝のボルシチがあのインドカリーと並ぶ、開店当初からの看板商品だったとは!それにはとても驚き、あらためて中村屋の奥深さを知ったのである。
 そしてこの度、新宿中村屋さんのご協力により、私たちロシア極東大学函館校の「はこだてロシアまつり」で、ボルシチの缶詰を販売できることとなった。
 まつりの目玉、ロシア料理レストランでは毎年ロシア人教員手づくりのボルシチを提供するが、お持ち帰りを希望するお客さんも多い。レストランのボルシチを持ち帰ることは出来ないが、今年は中村屋さんのボルシチ缶を買って帰り、ご家庭で志高い中村屋の精神と、ロシアとの関わりに思いを馳せてみるのもいいのではないでしょうか。

ロシア極東国立総合大学函館校 事務局 大 渡 涼 子