北の地の「春」
ロシア極東連邦総合大学函館校 准教授・学務課長 倉田 有佳
4月。新学期。新たな一歩を踏み出す季節である。長い冬の末にやってくる春は、それ自体が喜びだ。生まれ育ったのは陽光溢れる温暖な地だが、北の地での暮らしは既に25年にも及ぶ。札幌を皮切りに、根室、モスクワ、ウラジオストク、そして函館に至る。
札幌での最初の秋、通っていたロシア語クラスのロシア人教師が「秋」のイメージを問うた。日本人の生徒たちは、口をそろえて「長雨」、「氷雨」と答えた。秋のイメージと言えば、「空高き秋」、「澄んだ青空」、「運動会」が当たり前と考えていただけに、その時の驚きは大きかった。だがそれ以上に衝撃だったのは、モスクワ出身のロシア人教師と北海道在住の日本人の「秋」のイメージが一致していたことである。
春。高校時代までは、新たな環境に適応しなければならない4月は、精神的試練の時だった。「朧月夜」、「春眠暁を覚えず」、という言葉があるように、春の気怠さも好きにはなれなかった。だが、モスクワで迎えた春には、それまでに味わったことのないほど大きな感動があった。
ソ連邦が崩壊した1991年の冬は、冬時間の設定の関係だろうか、午後3時半か4時には外は真っ暗だった。それだけでも気持ちが滅入るというのに、初めての冬は、極寒に耐えうる靴や靴下の用意をしていなかったため、足の先からくる疼痛に苦しめられた。車内が完全に冷え切ったトロリーバスから降りて、寮までのわずか10分程度の距離を歩くことがどれほど辛かったことか。
冬の生活の厳しさは、寒さや天候だけではない。日本の八百屋が夢にまで現れたことがある。レタスでもなんでも、好きな葉物野菜を自由に買っている自分がいた。特にサラダ好きというわけでもないが、夢に見るほど新鮮な野菜に飢えていたということか。
だが1月も半ばを過ぎる頃、太陽の光が日に日に増し、うつ気味だった気持ちは一気に上向き、全身に力がみなぎって来る。レーニン丘(現雀が丘)に建つ大学寮の周りの林からは、小鳥のさえずりが聞こえるようになる。寮に年中巣食っている小さな虫たちも、冬の間の動きの鈍さからは想像もできぬほど、突然俊敏な動きへと変わる。
大学のグランドでは男子学生たちが雪のまだ残る中、サッカーを始める。休日の昼間には、寮の部屋の二重窓を開け放ち、ラジカセを外に向けて大音響で音楽を流す学生が現れる。真夜中、男子学生数名が春の夜道をそぞろ歩きしながら、「ウオオー」、「ウオオー」と咆哮する。いずれも北の地ならではの春の風物詩だが、生きとし生けるものすべてに生命力を吹き込むのが春であることを身を持って体験する。これこそ北の地に暮らす醍醐味と言えよう。
さて、今年の春、函館校には13名が入学することになった。近年は、南は九州・沖縄と、全国各地から集まる傾向があるが、今年の新入生の半数近くは道内・青森出身者で占められている。道内では雪が少なく、温暖と言われる函館だが、最初の冬は慣れぬ雪で苦労することだろう。だが北の地でしか味わえない春の喜びを味わうことにもなるだろう。寒さ厳しく、雪が多い年ほど春は輝かしく、喜びはひとしおである。人生もまた然りである。
新入生は4月からロシア語に懸命に取り組むことになる。在校生もまた、新たな学年を迎え、これまでよりも少し高めの目標を定め、それに向かって挑戦してほしい。大きな苦難や試練の後には、すばらしい「春」が実感できることを信じて。
人事
新しい先生が着任しました
昨年3月末で退職したアニケーエフ・セルゲイ教授の後任として、3月25日にウラジオストク本学よりスレイメノヴァ・アイーダ准教授が着任しました。
文学に造詣が深く、与謝野晶子をはじめとする近代日本文学の研究をされており、来日経験も豊富です。2~4年生のロシア文学史ほか、実用ロシア語会話や通訳翻訳の演習を担当します。
学務課よりお知らせ
校舎の利用時間
本校の校舎利用時間は平日8:30~17:00です。原則として平日以外は休校のため校舎内立ち入りはできません。利用時間外に校舎を利用したいときは、あらかじめ事務局に申し出てください。
校内掲示板(学生連絡)について
ほぼ毎日、学生への連絡事項を校内掲示板に貼りだします。掲示板は、学生係、教務係、進路・就職、図書室、自治会・サークル活動、事務局の6種類ありますのでそれぞれ確認してください。掲示物を見落としたことにより生じる不都合・不利益について、学校は責任を負いかねます。
出席率について
期末試験を受けるには各授業原則80%以上の出席率が必要であり、出席率が低い学生には受験資格が与えられません。
留年を防止するため特に出席率が低い学生の保護者の方には文書で通知しています。
欠席について(7日未満の欠席)
やむをえず授業を欠席するときは事務局で所定の用紙をもらい、必要事項を記入して、欠席する授業を担当する教員に届け出てください。欠席する日があらかじめわかっていれば前日までに届け出てください。当日急に欠席した場合は、翌登校日に届け出てください。
欠席した場合、放課後の補習時間を利用するなどして早期に授業の遅れを取り戻すことが必要です。欠席が多くなるとそれだけ回復困難になり、授業についていけなくなりますので、普段から体調や生活リズムを整えて、安易に欠席することのないようにしてください。
なお、7日以上の長期欠席、公欠は、事務局学務課へ届け出てください。
補習について
平日の放課後は毎日ロシアセンターで補習を行います。補習担当教員の当番表は教務係掲示板に掲示しています。
論文ガイダンス・学年レポート
学年論文と卒業論文執筆者(3、4年生)を対象とする論文ガイダンスを4月に実施します。論文ガイダンスにおいては「論文ガイドブック」を配布し、論文執筆の取り組み方、またその実際的な問題についての説明を行います。また論文に関する年間スケジュールの確認も行います。
1、2年生(ロシア語科・ロシア地域学科)を対象とする学年レポートのガイダンスについては掲示にて開催日時をお知らせします。
JASSO奨学金
本校入学以前に日本学生支援機構奨学金を貸与されていた新入生および前年度で貸与を終了した2~4年生は奨学金返還期限の猶予を申請できます。希望者は4月18日(月)までに事務局学務課に在学届を提出してください。在学届は貸与終了時に交付された「返還のてびき」に所収の様式を使用してください。
なお、在学届はインターネットからも提出できます。
進学届の提出について(採用候補者)
大学等奨学生採用候補者は決定通知【進学先提出用】を4月8日(金)までに事務局へ提出してください。入学時特別増額貸与奨学金に係る書類提出の指定があれば一緒に提出してください。書類に不備がなければ学校の識別番号(ユーザIDとパスワード)を交付しますので進学届を4月15日(金)までにインターネットで提出してください。
在学採用募集説明会(貸与希望者)
4月15日(金)16:10から7番教室で奨学金申込の説明と申請書類を配付します。希望する学生は必ず出席してください。この日どうしても出席できない場合は、事前に事務局に申し出てください。
留学説明会
4月25日(月)14:40からロシア語科2年生とロシア地域学科3年生を対象に第1回留学説明会を行います。場所は4番教室です。
図書室より
この春、就職対策や論文作成の参考となる図書を大量に購入しました。ぜひ学習に役立ててください。そして、図書は大切な財産です。マナーを守って使用してください。図書室を利用できるのは、本校教職員および学生、聴講生のほか、本校教職員の紹介がある方。
開館時間は平日の午前9時から午後4時30分、貸出は同時に5冊が上限です。
一般図書の貸出日数は15日間です。日数、手続きは書物により異なります。貸出・返却は必ず事務局職員を通じて手続きをとってください。貸出が長期に渡る場合は所定の手続きが必要です。
短信
就職支援体制について
本校では、事務局のサポートをはじめ、『ハローワークはこだて』相談員による学内個別相談や就職ガイダンスを実施しています。今年度の卒業予定者だけでなく、早い段階から就職活動に向けた準備を始めましょう。
また、TOEIC 対策特別講座およびТРКИ講座を開催する予定です。資格の取得に積極的に取り組んでいきましょう。
△ハローワーク函館のジョブサポーターによる全学年を対象とする就職講座
TOEIC対策特別講座
TOEICは英語によるコミュニケーション能力を幅広く評価する世界共通のテストで、企業等では採用・昇進のための必須要件となっています。函館では今年も9月と1月に公開テストが行われますが、本校では前期に学内模試とそのフォローアップからなる特別講座を開催します。自己の英語能力を把握しさらに向上を図るために是非受講しましょう。開講日程は掲示板にてお知らせします。
ТРКИ講座
ТРКИ(テルキ)は外国人のためのロシア語能力検定試験です。入門、基礎、1級~4級のレベル別のテストであり、語彙・文法、読解、作文、会話、リスニングの5つのパートからなっています。当講座では模試開催をはじめ、各パートに合格するための必要な実践的な知識を学習します。ロシア地域学科の学生は卒業までに2級の合格を目指しましょう。開講日程は掲示板にてお知らせします。
ビジネスセミナーについて
今年も川重商事元社長 渡辺善行氏による『ビジネスセミナー』を定期的に実施します。一般常識として必要な、時事問題や社会制度について広く勉強します。
初回は5月30日(月)の4限目、テーマは「会社の成り立ちと雇用」です。科目認定されるため、学生の出席は必須です。
オープンキャンパス
今年度のオープンキャンパスは下記の日程で2回行います。
日時:第1回 6月18日(土)午後1時~午後3時30分
第2回 9月25日(日)午前10時~午後12時30分
1年生は模擬授業に出席します。また、学生自治会からは、学校紹介を行います。自治会役員と1年生は全員出席しましょう。
寄稿
卒業生からの寄稿
「函館校での思い出」ロシア語科卒 浅川 真人
函館校での思い出は簡単には語り尽くせません。そもそも私がロシアに興味を持ったのはエフゲニー・キーシンの弾く「展覧会の絵」を聞いたのが きっかけでした。どの国にもそれぞれ興味深い文化は存在しますが、特にロシアのそれは直感的に訴えるものがあったのだと思います。「惑星ソラリス」に代表されるタルコフスキーの映画 や、ラフマニノフの楽曲などに触れるうち、自然とその国についてより深く知りたいという気持ちが生まれ、更に英語と並行して別の外国語を勉強することでより広い視点を得るという目標を立てました。
函館校では会話、文法の授業のみならず、文化や文学にも通暁された先生方のお話を聞くことも興味深いものでした。日本語の堪能な先生方でしたので、私自身それに甘えてばかりの不出来な学習者で、蛙鳴蝉噪どころかその語彙にも悩む有様でした。それでも道内から広くロシア語学習者の集まる弁論大会等において一定の結果を残せたことは自信につながりましたし、函館校では特に発音や自然な文法などの点で良質な授業が行われていると実感しました。
帰省する度に懐かしくなるここ函館の生活を支えて下さった多くの方々に感謝致します。
卒業生からの寄稿
「ロシア語を学んで」ロシア語科卒 渋谷 えり
私はこの学校で学んだ2年間にロシア語の知識はもちろんのこと、共にロシア語を学ぶ仲間を得ることができました。クラスメイトの皆とは、ロシア語の文法や発音を習得する難しさも、少しずづ力が身についていく喜びも分かち合い、互いに成長することができ、とても感謝しています。
また、留学での出会いからは新しい刺激をもらい、より意欲的に勉強しようという原動力となりました。
ロシア語を介して出会った人々は私の人生のかけがえのない財産となりました。
「ロシア語との闘い」
ロシア地域学科3年 金子 智昭
2月17日にサハリンより舞踏団一行9名が来日され、自分は通訳として空港まで出迎えに行きました。ここでその時の事を少しご報告したいと思います。
この日の早朝に函館市の職員の方と二人で函館を発ち、新千歳空港へ着いたのは正午頃のことでした。しかし荒天の為か飛行機の到着が遅れ、時間が多少押すような形で私の最初の通訳業務は始まりました。
私は元来、緊張が大変に強い質で、この時も緊張が出ぬように心がけたつもりではありましたが、なにせ相手はロシア人。頭の中が真っ白になってしまい、日頃学習してきた事も忘れ、うまく言葉が出て来ず、大変に恥ずかしい思いを致しました。
何とか食事も食べていただき、函館へと連れて帰りはしたのですが、その後も苦労が続き、この日一日、私は完全に無力な存在であったと思います。今後どう学習を続けるべきなのか、どう緊張に打ち勝つか、私には考えるべき事は沢山あるようです。
ただ、翌週一行が函館校へ交流のため来校し、再び話をする機会がありました。その折に私が今年サハリンへ行く予定がある事を話しますと(昨年12月の全道ロシア語弁論大会の入賞の褒賞品)、大変親切に話しかけてくれ、行く前から当地に知己を得るという幸運にも恵まれました。
私の当面の課題は、その時までに自分のこの緊張とロシア語を何とかする事にあるでしょう。
「第3回世界こどもフェスティバル」で通訳を務めて
ロシア地域学科3年 奥山 茜
函館市内で開催された「第3回世界のこどもフェスティバル」に出演するため、函館市と姉妹都市提携を結ぶロシアのユジノサハリンスク市から「スカースカ舞踊団」が来函しました。「スカースカ」の団員は、13~17歳までの7名の少女たちで、民族衣装から私服に着替えると、携帯を片時も離さない、日本にもいそうな女の子たちでした。
今回私は、函館から札幌の新千歳空港までの帰路、学生通訳として同行させていただきました。2月23日の昼に函館を離れ、夕方に札幌のホテルに到着しました。ホテルのレストランで夕食を共にした後、買い物にお付き合いしました。
恥ずかしながら、札幌に行くのは初めてでしたので、まず巨大な地下歩道で道に迷い、私たち一行(舞踏団引率教師、サハリン市職員、函館市職員を含む)11名のうち、数名がはぐれてしまいました。連絡を取り合う術がなかったので、あらかじめ決めてあった待ち合わせ時間まで買い物をしようということになりました。
彼女達は函館滞在中にも、100円ショップやドンキホーテ、ユニクロを訪れ、買い物を楽しんだそうですが、札幌の品揃えは函館よりも豊富で、買い物欲に火がついてしまったようでした。ロシアに進出しているユニクロの店舗はモスクワとペテルブルクに集中しており、日本よりも値段が高いそうで、シャツやパーカー、セーターなどを試着し、かなりの時間、吟味していました。日本では今「プチプラ」と呼ばれるファッションブランドが数多くあり、それゆえに「安物買いの銭失い」、「断捨離」といった言葉が使われますが、反対にロシア人は物や文化を大切にする性格なので、シャツ一枚からでも試着し、着回しやコーディネートをしっかり考えるのではないかと思いました。100円ショップではマニキュアやお菓子を買い、待ち合わせ時間ギリギリまでお店に残っていました。
結局、はぐれたメンバーとは待ち合わせ場所で無事合流することができ、ホテルに帰ることとなりました。その帰路、「スーパーマーケット」に立ち寄りたいと言われ、連れていかれた先はコンビニ(「サンクス」)でした。そこでもお菓子やジュースを買い込み、買い物で疲れたのかパンなども購入していました。また、ホット専用のペットボトル容器や、味の豊富なアイスなどにも興味を持ち、「まだ日本にいたい」、とこぼしていました。
就寝前に荷物の重量制限のことなどを伝えると、海外旅行に慣れている年長者がみんなを取りまとめてくれました。ロシアでは国内を旅行するにも国内用のパスポートが必要で、初めての海外に不安を覚える女の子たちも何人かいたようですが、今回の訪日で良い思い出ができたと語ってくれました。
翌2月24日は、朝から新千歳空港へ向かいました。手続きまでの時間を最後の買い物の時間とし、チョコレートや日本製のサプリを購入し、必死にスーツケースに詰めたあと、別れの挨拶をしました。
通訳として同行したにも関わらず、語学の能力の乏しさを感じることもありましたが、彼女達の協力もあり、乗り切ることができました。そして靴や洋服のサイズの表示の仕方が日本とロシアでは異なることを今回初めて知りました(日本の「S」サイズは、ロシアでは「44」と表示)。ロシア語だけでなく、ロシアに関する一般の知識の勉強もしなくてはいけないと思い知らされました。
今回の経験をもとに、勉学に励んでいきたいと思います。
函館日ロ親善協会からのお知らせ
1~3月の主な活動実績
○2月11日(木・祝)
当協会が後援するロシア極東大函館校の第18回『はこだてロシアまつり』が開催されました。極東大の学内行事でもある「マースレニッツア」(冬を追い出し春を呼ぶロシアの伝統行事)をメインイベントに、きのこスープやブリヌィ、ピロシキなどを楽しめるレストラン、チェブラーシカグッズやボルシチスープの素などを扱った雑貨販売のほか、ロシア語教室、ロシアカラオケ、そして「コール八幡坂」による合唱などが行われ、多くの市民で賑わいました。
去る3月26日に北海道新幹線が開業した函館では、それに合わせて様々なイベントが行われています。当協会でも、恒例となった「はこだてグルメサーカス」参加などを予定しております。会員の皆様には、5月開催予定の総会において事業計画をお示しいたしたいと思います。
新年度も皆様のご理解とご協力をお願いいたします。
≪係りより≫
今年度は13名の新入生を迎えることができました。新たな仲間を迎え、互いに助け合い、切磋琢磨しながら、新たな1年に向かってがんばりましょう。(倉田)