学問の道
ロシア極東連邦総合大学函館校 総務課長 大渡 涼子
毎週月曜の夜、本校で開講されているロシア語市民講座に通って丸11年が経った。その間、私が教わった先生は5人、どの先生も教え方は違うが、それぞれ特徴のある良い先生たちだ。
市民講座は入門・初級・中級・上級と4コースあるが、私は入門を1年、初級を4年、そして今は中級の6年目が終わったところだ。1年ごとに進級できるほど、ロシア語の道は甘くはないのだ。
市民講座には、実にさまざまな人々が集まる。昨年度も中学生や主婦、会社員から70代まで、幅広い年齢層の方が集う。そして勉強の目的もさまざまだ。
時々簡単に、「旅行に行ったらチョコチョコッと話せる程度になればいい」と言う人がいるが、そのような気持ちで入門すると、すぐに後悔することになる。まず、33のキリル文字を覚えなければいけない。見たこともない文字、または見たことがあっても英語のCがロシア語ではS?PがR??なんのことだ???と、こんがらがる。それにそもそも、ロシア語は文法も覚えずに丸暗記すれば旅行で使えるような言語ではないのだ。英語のように子どもの頃から知らずに目に耳に触れている言葉とも違う。
極東大学に勤める前、私は函館市役所の企画部で臨時職員として働いていた。当時そこにはロシア語の嘱託通訳、小杉繁さんという方がいた。今はもう、お亡くなりになっているが、シベリア抑留に遭いロシア語を覚えたと言う方で、函館ドックの通訳をしていた。晩年まで、ロシアから流れてくるラジオ電波を拾って、ロシア語を忘れないよう耳を鍛えていたという。うちの先生方が聞いても、ロシア人がしゃべっていると思うほど、完璧なロシア語だった。
私が市役所の仕事を辞めて極東大学に行くことになった時、まったくロシアとは無関係だった私に小杉さんはこう言った。「一日一つ、何でもいいからロシア語の単語を覚えなさい。そうすると1年で365個、毎年どんどん確実に数が増えていく。一日一つなら、簡単でしょう?」
では今、私が何千もの単語を覚えているかといえば、まったくそうではない。小杉さんのありがたい教えを私は守れていないのだ。
でも取りあえず、ロシア語市民講座を続け、月曜日の夜6時半になると、事務室から上の教室に上がる。私は階段をたった一つ昇るだけだが、ほかの受講生のみなさんは車で、あるいはバスや電車を乗り継いで、雨の日も雪の日もこの函館山の麓までやってくる。仕事帰りの人も多く、その向学心には本当に頭が下がる。
ではみなさんは、ロシア語を覚えたところで、それをいつ、どのように使うのか。日々ロシア人と接する仕事の私にとっては、覚えていると何かと役に立つことも多いが、普通の函館の生活でロシア語を必要とする機会は滅多にない。よって実用性を求めているのではないだろう。
私が今いる中級クラスは、全部で4人だが、必要に迫られてというよりは、純粋にロシア語を学びたくて学んでいるのだと思う。
先生はたとえ市民講座でも手を抜かない。学生並みにテキストを作り、授業をしてくれる。文章を読み、質問に答えて、熟語や慣用句を覚え、穴埋め問題をし、格変化の練習をする。中級クラスはロシア語オンリー、質問も答えもすべてロシア語だ。毎回少しずつ、ロシアの映画も見せてくれる。そして授業の終わりには次回のテキストが配られる。毎週90分授業で以上のことをするため、私はいつも日曜日に2時間ほど予習をする。なぜなら予習をしないと、まったく進めないのだ。それに他の受講生もきちんと勉強してくるので、ついていけないと自分が恥をかくし、ほかの人の足を引っ張ることにもなる。そういう訳で、本当は小杉さんの言うとおり、毎日少しずつやればよいのかもしれないが、日曜の夜に泣きながら予習をする。
授業中、私などは適当にわかったふりをしてごまかしているところもあるが、完璧に理解している人もいる。昔、学生時代に勉強して、それ以来仕事とは関係なくずっと続けていたり、中には“ボケ防止”に、と言う人もいるけれど、それにしてはハードな道だ。みなさん見返りなど求めずに、ただロシア語という不可思議な言語の魅力、あるいは外国語を学ぶという喜びに取りつかれたのではないだろうか。そして私は、ここで言葉を身につけるというより、もっと大事な、学ぶということ、小杉さんが言ったように学び続けるということを教わっている気がする。とてもよいクラスメイトに恵まれたと思う。そういう人たちに敬意を表し、その姿が励みとなり、自分もまた勉強を続けていけるのではないだろうか。
今、ロシア語という未知の「学問の道」を選んだ極東大学の新入生たちにも、ここでそういう素晴らしい仲間を見つけてほしいと願う。切磋琢磨、そうすることで自分も、クラス全体も、いつか伸びていけると信じて。
学務課よりお知らせ
校舎の利用時間
本校の校舎利用時間は8時30分から17時までです。平日以外は原則として休校のため、校舎利用、校舎内立ち入りはできません。
利用時間外に校舎を利用したいときは、あらかじめ事務局に申し出て許可をとってから 利用してください。
校内掲示と掲示版について
学生のみなさんへの諸連絡は基本的に校内に設置されている掲示板上で行われます。事務局、学生係、教務係、キャリアサポート、図書室、自治会・サークルからの連絡事項が書かれた掲示物が専用掲示版に適宜貼り出されます。登下校時や休み時間に掲示物を確認することを習慣づけましょう。掲示板は校内に6枚あります。
掲示物を見落としたことによって生じる不都合・不利益について、学校では責任を負いかねるので注意してください。
掲示物は掲示日より学生に全て周知されたものとして扱い、原則1週間で撤去します。
出席率について
本校の学生は、各授業の出席率が80%以上なければ期末試験の受験資格がありません。 そのため、特に出席率が低い学生については、留年防止のため、保護者の方へ文書で通知して学生への注意を促しています。
欠席について
欠席する場合は学校への届出が必要です。欠席日が事前にわかっている場合は、前日までに事務局で所定の手続きしてください。やむを得ず急に欠席する場合は、当日の朝に欠席する旨と理由を電話等で連絡し、その後の登校日に正式に欠席届を提出してください。
欠席分の授業の遅れはそのままにせず、自習等で早期に挽回するよう努力してください。欠席・遅刻が度重なると遅れを取り戻すのが難しくなります。授業についていけなくなることを避けるためにも、普段から健康管理にも気を配り、安易に欠席しないよう心がけましょう。
補習について
平日の放課後に全学生を対象にした補習時間を設けています。教員の補習当番表を教務係掲示板に貼り出してあります。補習を受けたい学生は教員に直接申し込んでください。
論文ガイダンス
1年間にわたってロシア地域学科3年生と4年生全員を対象にした論文ガイダンス・論文経過報告会を実施しています。
論文ガイダンスでは、「極東大論文ガイドブック」を配付し、鳥飼先生の「論文作成」授業の内容や、年間を通じて行われる「論文経過報告会」についての説明を行います。
ガイダンス、報告会の開催日程は後日掲示してお知らせします。
JASSO奨学金
在学届の提出について
本校入学以前に日本学生支援機構から奨学金の貸与を受けていた学生は、在学届を提出することによって本校在学中は奨学金の返還期限を猶予することができます。猶予手続きを希望する学生は4月16日(月)までに事務局に申し出てください。
平成24年度大学等奨学生採用候補者へ
4月13日(金)までに決定通知【進学先提出用】を事務局へ提出してください(入学時特別増額貸与奨学金について書類提出の指定がある場合は一緒に提出のこと)。書類に不備がなければ学校の識別番号(ユーザIDとパスワード)を交付します。進学届の提出は16日(月)までに行ってください。
在学採用募集説明会
4月16日(月)14:40から4番教室で、 奨学生募集説明会と申込書類の配付を行いますので、貸与を希望する学生は必ず出席してください。この日どうしても出席できない場合は、事前に事務局まで申し出てください。
留学説明会
4月26日(木)14:40から4番教室でロシア語科2年生とロシア地域学科3年生を対象に第1回留学実習説明会を行います。
留学説明会は4月から出発までの期間に計4回行う予定です。
図書室より
図書は大切な財産です。みなさんが気持ちよく利用できるよう、今一度図書室利用規則を確認します。
① 図書室を利用できるのは
本校教職員および学生、聴講生のほか、本校教職員の紹介がある方。開館時間は平日午前9時から午後4時30分。
② 館外貸出しているのは
同時貸出は5冊まで。一般図書の貸出日数は15日間です。日数、手続きは書物により異なります。貸出が長期に渡る場合は、必ず所定の手続きをとってください。
③ 係が不在の時は
無用のトラブルを防ぐため、司書が不在の時は必ず事務局職員を通じて貸出・返却手続きをとってください。
詳細は司書または事務局にお尋ねください。
短信
3月1日(木)税関職員ロシア語研修が修了し、1月19日(木)から受講していた税関職員5名の方は、大きな研修成果とともに職場に復帰されました。
研修生は毎日4時限の授業と、予習・復習・宿題に追われるハードな毎日を頑張り抜き、研修修了式を迎えられました。またその翌日は税関研修所で開催された全国税関外国語弁論大会(ロシア語の部)へ出場、見事上位入賞を果たしました。
5月には本校で税関フォローアップ研修が開講されます。ロシア人教授陣を中心にしたカリキュラムによりロシア語にさらに磨きをかけます。
お知らせ
平成24年度オープンキャンパス
今年度は下記の日程でオープンキャンパスを行います。開催日が近くなりましたら、詳しい内容をホームページなどでお知らせします。
このほかに、学校見学を随時受け付けています。お気軽にご連絡ください。
日 時:第1回 6月23日(土)午後1時~3時
第2回 8月 4日(土)午後1時~3時
第3回 10月28日(日)午前10時~12時
2012はこだてロシアまつり
今年も本校を会場に、7月14日(土)開催を予定しています。近くなりましたら、詳細を本校ホームページ等に掲載してお知らせいたします。
毎年多くの方にお越しいただいているロシアまつりも、お陰様で今回で15回目を迎えます。今年もたくさんの方のご来場を期待して教職員一同準備を進めてまいります。
卒業生からの寄稿
卒業にあたって
ロシア地域学科卒 芹澤 寛人
まずは、先生方、職員の皆さん、そして同じ時を過ごした仲間たち、先輩方、後輩に感謝する。無事に卒業できたのは、皆さんの支援のお蔭である。
本学にはロシア語学習を目的として入ってくる方々が多い。それは当然のことだと思うのだが、私の意見としては、もしそれだけが目的ならば、そういう方々は日本に点在する他校に通うという選択肢を取ることも可能である。私が本学に通うことにした理由は、日本に居ながら外国人、しかもロシア人と言う日本人にとっては馴染のない人たちと接してみたかったから、そして日本に居ながら、ヨーロッパの教育システムで授業を受けたかったからである。日本の学校は、減点式で人を見る。どんな人間にも欠点はある。しかし、本校の先生方は、この生徒は何ができるのか、何に秀でているのかを見て下さっていたと思う。できなくても、決して生徒をバカにはしないのだ。なぜなら、欠点があるのが人間だからである。欠点があることを前提に、どう頑張っていくかでその人の価値が決まるのである。
本学には、幅広い年齢層の学生が在籍していることが、特色の一つである。様々なバックグラウンドを持つ人たちと接することができ、勉強させていただいた。
学生生活で一番経験として残っているのは、やはり二度にわたって参加した北方領土交流事業である。一度目は受入事業で根室方面での島民と交流をし、そして二度目は訪問事業で色丹島を訪問した。色丹島には宿泊施設がないので、船内泊となった。そこで観た夜空が忘れられない。周りには船の光と、島の数軒の民家からの光が届くのみで、後は暗闇の世界だ。まるで宇宙空間にいるような気分だった。島民には、ロシア系はもちろんの事、ウクライナ系、アジア系、そしてアラビア系の人たちまでいたことには驚いた。
本学で学んだ経験をどのように生かしていくのかは、その人次第である。4年間はその後の人生と比較すれば短い。ほんの一瞬なのだ。今一番しなければいけないことは何かを考えることだ。焦る必要はない。しかし、時間は有限である。
ロシア地域学科卒 吉田 真大
「ロシア語」「ロシアまつり」「ロシア留学」。この4年間を振り返って思い起こす事といえばやはりロシアの事ばかりで、日本で有数の観光地である函館に住んでいる事さえ忘れてしまう程、ロシアの空気を直に感じていたのだと今になって気付かされます。その中でも特に印象に残っているのはウラジオストクへの留学でした。現地でロシア人と交流していて驚いたことは、学生に限らず、日本への関心を持つロシア人が多いということ、そして彼らは大きな志や情を持っているということです。ロシア人のそういった一面を見て、人同士の隔たりは、もう殆んど無いのだと感じました。
最近では海外に視点を向けたテレビ番組等が急激に増え始め、コマーシャルではさりげなくロシア民謡が流れていたりと、日本人の外国に対する興味、関心がより一層高まってきているように感じられます。今後良い機会が訪れた際には、日本から遠いようで実はとても近い国「ロシア」との架け橋を築き、両国がより一層親密になれるように頑張りたいと思います。
ロシア語科卒 福田 加奈子
今、2年間の学生生活を振り返ると、あっという間であったのにもかかわらず沢山の出来事があって、何から書き出したら良いのかわかりません。
言語と異文化について学び続けている大先輩である極東大の先生方からは、ロシア語のみでなく期待した以上に多くのことを学ぶことができました。タチアナ先生には日々のロシア語会話の授業から、努力して人生を築いていく素晴らしさを学びました。デルカーチ先生の難しい試験内容からは、世の中の世知辛さを知り、上手くいかないことがあっても誠実に頑張ろうと考えられるようになりました。ロマン先生はいつもマイペースで小さな悩み事など吹き飛ばしてくれるような授業でした。アニケーフ先生の探究心からは、好奇心を持ち学び続けることの大切さを感じました。ワレリー先生の聴き取りやすい英語の発音につられて学習意欲がどんどん燃え、鳥飼先生からは日本にいながら外国語を楽しく学び続けるコツを教えてもらいました。グラチェンコフ先生の笑顔と面白い授業内容のおかげで、言葉だけでなくロシアという国について今後も更に学びたいと思うようになりました。そして校長先生の授業からは、外国語を学ぶことは大変だけど、少しずつ前進していけることに遣り甲斐を感じるようになりました。
2年間も毎日ロシア語に触れていたのに本当の意味で学習意欲を感じるようになったのは、こうした先生たちの授業が私の成長にとってかけがえのないものだと気付いてからです。先生方には感謝の気持ちでいっぱいです。このまま卒業してしまうのはとても惜しく残念です。しかしこの学校で学んだことを、今後は社会生活で活かし日々の生活を充実したものにしようと思います。本当にありがとうございました。
ロシア語科卒 小早川 眸
『ключи к знаниям(知識へのキー)』。みなさんは、この名前を覚えていますか?そう、入学式に必ずここの新入生がもらうあの大きな鍵のことです。2009年の入学式、私はあの鍵を、学生を代表して頂く役をさせてもらいました。校長先生が手渡す時に、「この鍵はどこで使われるかわかりません。是非見つけてください。」とおっしゃっていたのを覚えています。そしてその日から私は、あの鍵をどうやって使うのか、いや、どこで使われるのか考えていました。
2年前、北海道に根差した外国語教育の一つの可能性であるロシア語を勉強したいという思いでこの学校に入学しました。その思いは今でもずっと変わらず、むしろこれからの日ロの架け橋、主に若者を巻き込む力になりたいと思うようにもなりました。振り返ると大学生活は本当に有意義でした。高校を卒業してからロシア語を勉強したいと入る学生、社会人を経てロシア語を学習したいと思う学生、20歳から60歳までの様々な角度からロシアに興味を持って集まってできたクラスメイト。彼らとともに歩んできた2年間の中で私が学んだことは数多くあります。上手く言葉にはできませんが、2年前の私と今の私を比べれば、今の方が人間として一回りも二回りも成長していると思います。
勉強に関しても、再認識させられました。若輩者の私が言うのも恐れ多いですが、語学の本質は決して良い点数をとることだけが正解ではないということです。語学は能力が物を言う時があります。発音が上手い、記憶力がいい、コミュニケーションが得意、言語習得が得意な脳を持っていたらそれはスタートダッシュが楽です。しかしそんなものがなくても、勉強量と努力で補えるのも語学だと思います。
アニケーエフ先生が「語学を勉強するのは登山と一緒」とそのようなことをおっしゃっていましたが、結局頂上を目指さなければいけないのです。だからきっと最初からロシア語が上手な人はきっと本道から入ったのでしょう。下手な人は藪から入ってしまったのでしょう。もしかしたら上手い人もこれからだって道に迷うかもしれません。茂みから入った人はラッキーなことに本道にでてそのままスイスイ進めるかもしれません。ロシア語に行き詰まってる人!狭いクラスにいると自分の不出来に嫌気がさしてくるかもしれませんが、他人を恨むことなく、ゴール目指し、自分自身と是非戦うことを忘れないでください。
最後に、鍵の本題に戻ります。卒業目前にしているこの今でも、私はあのカギがどこに使われるのか悩んだままです。しかし、ここで学んだ全てのことをこれからの未来につなげたいということだけは確かです。もしかしたら実はもう使ってしまっているのに小心者の私は恐る恐る開いている最中なのかもしれません。まだまだ悩み中です。でも頑張っていきます!
学生生活の中で、みなさんの知識へのカギが開かれますように。
函館日ロ親善協会からのお知らせ
1~3月の主な活動実績
1月から3月までの主な活動実績はございません。
今年は函館市が市制施行90周年を迎え、8月に記念式典の開催が予定されています。ロシアからはウラジオストクやユジノサハリンスクなど姉妹都市の代表団が来函し、式典に参加する予定だそうです。当協会でも式典参加を含め現在事業計画を作成中です。会員の皆様には5月開催予定の総会において今年度の事業計画をお示しいたします。
今年度も皆様のご理解とご協力をお願いいたします。
≪係りより≫
○ 平成24年度第1回目の巻頭言は本校総務課長の大渡さんによるものです。語学の学習の難しさや、学び続けることの苦しみや喜びを、自分の体験と先輩の助言や学ぶ姿を通じて述べており、共に学ぶ仲間に対する絆や精進し続ける心の大切さをかみしめることのできる、ちょっと心にぐっとくる文章となっています。
○ ミリオンズビョースト71号をお送りします。次回は7月です。お楽しみに。(長谷川)