私の日本・日本文学
ロシア極東連邦総合大学函館校 准教授 スレイメノヴァ・アイーダ
日本学への道は、回り道だった。
実は、私が最初に極東大学で勉強したのは化学で、卒業後はロシア科学アカデミー・太平洋バイオ・オーガニック化学の研究所で8年間勤めていた。
1989年から90年には、大学で行われていたイリイン・セルゲイ先生の日本語のコースに通ってみた。「日本語は面白いし、そんなに難しくない」と考えたが、当時は化学に夢中になっていて、転職については全然考えずに暮らしていた。
しかし、ソ連崩壊前後の1990年代には、科学アカデミーでは大きな改革が始まり、全ての研究者が自費で研究を続けなければならなくなった。私は岐路に立ったときに、日本語のことを思い出した。言葉を勉強するには、辞書、教科書以外に試薬などは必要ではない。そのため再び極東大学に入学し、日本語・日本文学を専攻した。
1994年8月には、極東大学の前に与謝野晶子の詩碑を造るイベントや晶子に関するセミナーや講義に参加したが、除幕式当日は、他の学生と同じように、誰のための誰の詩碑なのか全然わからなかった。しかし、京都府からいらっしゃった与謝野晶子・鉄幹の研究者と知り合い、大学の教授、研究者、詩と短歌のアマチュアと付き合いを始めた。だが、大学での学年論文と卒業論文のテーマは、「三島由紀夫の随筆」で頑張った。
卒業後、指導教官から与謝野晶子の作品を紹介していただき、大学院での研究テーマは「与謝野晶子の短歌」を選んだ。
与謝野晶子のもとに引き返すために、1994年に開かれたセミナーに参加した先生たちとの文通やお付き合いを生かした。2000-2001年、2005-2006年、2011-2012年には、日本で行われていた短歌会、与謝野晶子・石川啄木・北原白秋・宮沢賢治の研究会等に参加し、日本全国を旅行し、色々な詩と短歌の達人たちと交流することができた。この研究のおかげで晶子・鉄幹の短歌を翻訳し、近代短歌史についての本を2冊発表した。
ロシア人も近代文学、中でも宮沢賢治・芥川龍之介・与謝野夫妻に関心が強いと思う。特に、ウラジオストク、ハバロフスク、ナホトカ、サハリンなどロシア極東では関心が強い。
短歌や俳句を詠む会がウラジオストクのアルセニエフ博物館で行われていたが、希望者が多く、年に1-2回しか開かれないことに不満の声が聞こえる。日本の明治・大正時代の日本文学研究者の作品は、ロシアには10冊もなかった。
その不足を不満に感じた人たちは、2007年-2011年に与謝野晶子記念文学会を作って、在ウラジオストク日本センターで3カ月に1度集まって、短歌、俳句、日本文学、日本文化などに関するイベントを行っていた。もちろん、与謝野晶子の極東連邦大学前の詩碑の前での朗読会も主催した。私もこの活動に参加した。
ロシア人がどうして日本の歌人であった与謝野晶子に関心を持つようになったのか。与謝野晶子は1912年5月にウラジオストクをへて、遠いフランスのパリへ旅行したことは文学研究者の間では有名な事実だが、一般の読者はこの歴史的なことをよく覚えていない。ウラジオストクの人達は与謝野晶子記念文学会の集会でこの事実について聞き、驚き、「だから、日本人の観光団がこの詩碑を訪ねてくるのか!」という声が聞こえた。
だが、私は日本文化をより深く理解できる。日本の有名人の歌碑・詩碑・句碑を研究していた頃、日本全国を旅した。北海道では小樽・札幌の石川啄木の歌碑を巡って、すべての歌碑の様子、歌、詩を写真に撮り、自分の研究に使った。函館にもこのような旅行にやって来た。立待岬の晶子・鉄幹の歌碑も見学した。ロシアにはそのようなモニュメントがないので、両国の文化の相違・疑似にいつも考えさせられる。
今年の4月にロシア極東連邦総合大学函館校でロシア文学史、実用ロシア語会話、通訳翻訳の演習などの授業の教員となっている。日本近代文学からロシア文学へ大きく転換することになった。授業の前にはいつも心配するが、特にロシア文学の授業の間はドキドキしている。この緊張を解放するために、いつも朝のハリストス正教会の屋根を見て、ウラジオストクのポクロフスキー教会も思い出している。実は、北海道の風景はいつもロシアの風景を思い出させる。
昔々、啄木が「みぞれ降る 石狩の野の汽車に読みし ツルゲエネフの物語かな」という歌を作った。歌人は遠い国の作家について考えていたかもしれない。函館でも学生がツルゲーネフの物語、トルストイのお話、ドストエフスキーの長編小説を開くことを望みつつ、一生懸命に頑張りたいと思う。
学務課お知らせ
前期試験日程
今年度の前期試験を下記の通り実施します。ザチョット週間は、通常の時間割どおりに行われます。
エグザメン週間の日程については、掲示にてお知らせしますので確認してください。
ザチョット:7月19日(火)~7月25日(月)
エグザメン:7月26日(火)~8月5日(金)
成績通知について
前期の成績は、後期授業開始時の9月に配付します。配付は事務局で行いますので、期間内に受け取りに来てください。
9月12日(月)~9月23日(金)
なお、期間を過ぎましたら個人情報にかかわるので廃棄します。再発行はしませんので、希望者は必ず受け取りに来てください。
夏季休業
今年度の夏季休業は、8月8日(月)から9月9日(金)です。夏季休業中も平日は校舎の利用はできますが、8月12日(金)から16日(火)の間は、事務局休業のため校舎を閉鎖します。この期間は各種証明書の発行もできませんので注意願います。
後期授業は9月12日(月)より始まります。
短信
特別講義「日ロ貿易論」が開講されました
本校では、年に1回、全学年の学生を対象に、杉本侃客員教授による特別講義「日ロ貿易論」を実施しています。
杉本先生は、東京外国語大学ロシア学科を卒業後、(社)ソ連東欧貿易会(現:ロシアNIS貿易会)、サハリン石油開発機構(株)に長年勤務、さらに日本経団連日ロ経済委員会事務局長、ERINA(環日本海経済研究所)副所長などを歴任し、ソ連時代から現在に至るまでの長きにわたり、日ソ・日ロ経済関係、なかでもエネルギー問題の専門家として活躍されています。
年度の特別講義は6月6日(月)に行われました。
冒頭、「日ロ関係に春風が少し吹いてきているのでは?」、という問いかけがありました。
本論では、
1.低位安定のロシア経済
2.回復まだき日ロ貿易
3.日ロ経済関係の展望:首脳会談を承けて
(1)極東ロシアにおける協力の可能性
(2)北海道とサハリン州の関係
についてお話しされました。
最後に、「ロシア語の世界は開けるか」という、本校学生が関心ある疑問には、次のように説明いただきました。「大企業では15年ほど前から採用時に語学指定をしなくなっており、英語が重視され、ロシア語をはじめとする特殊言語での採用は減少している。だが共通語化が進んでも、現地語の需要は減ることはなく、有利さは色々ある」。「トップセールスを知事が行うこともあり、地方企業はトップ(知事)の志向性に左右されることが多い。現在、ロシア交流に力を入れている自治体は、北海道・秋田・青森・鳥取・島根で、みなさんが暮らす北海道でも知事が熱心に動いている」。
今回の講義内容は、基本的知識がまだ備わっていない1年生には少々難しかったようですが、長年の経験と研究蓄積に裏打ちされた日ロ経済専門家による講義内容は充実したものであり、同時に、将来ロシア語を使って活躍したいと考えている本校学生にとって、貴重かつ有益なアドバイスをいただく機会となりました。
第1回オープンキャンパス終了
去る6月18日(土)に第1回オープンキャンパスを実施しました。今回は7名の参加者をお迎えしました。
イリイナ・タチヤーナ准教授による1年生の模擬授業では、普段通りの授業に参加者のみなさんも加わっていただきました。
オープンキャンパスは、学生自治会行事でもあります。学生が自ら選んだ写真をお見せしながら、学生生活やサークル活動について、書記の山本さんが概要を説明し、副会長の奥山さんがロシア語で紹介しました。
教職員および在校生との懇談では、ピロシキ(ロシアのパン)とロシアンティーを楽しみながら、ロシア語の授業のこと、毎日の生活などが話題になりました。「入学を決めました!」、と早くも入学の意思を固めた参加者の方もいらっしゃいました。
在校生の大半が、オープンキャンパスに参加し、入学を決めたように、オープンキャンパスは、本校への入学を検討している参加者のみなさんが、授業内容や学校の雰囲気を知る絶好の機会となっています。1年生と自治会役員のみなさん、お疲れさまでした。
就職支援体制について
4月から、『ハローワークはこだて』ジョブサポーターによる個別相談や、就職ガイダンス(自己分析、履歴表の作成)を行っています。
また、5月30日(月)には川重商事元社長・渡辺善行氏による「ビジネスセミナー」(テーマ「『会社』の成り立ちと雇用形態」)を開講しました。
留学実習説明会
今年度のウラジオストクへの留学実習は9月13日(火)に出発することが決定しました。現在は、その準備のために月に1度説明会を実施しています。
6月16日(木)に行われた第3回留学実習説明会では、昨年度、留学実習に行った4年生からウラジオストクの街の様子や新しく移転したキャンパスの様子について話を聞きました。写真だけでは分からない学校事情はこれから行く学生にとって大変価値のある情報となりました。
第4回留学実習説明会は、留学に行く学生は必ず加入しなくてはならない海外旅行保険について説明します。日時は下記の通りです。対象学生は必ず出席しましょう。
日時:7月8日(金)14:40~
場所:4番教室
対象学生:ロシア語科2年、ロシア地域学科3年
JT奨学金
平成26年度から、日本たばこ産業株式会社(JT)の提供により、奨学金を給付しています。年間予算は1,529,600円で、学生の学習意欲の向上を図るため①ウラジオストク本学への留学実習と②夏季休暇短期インターンシップ(サンクトぺテルブルク・モスクワ8日間)の2種類の事業について給付されます。
①に関しては4名の採用が決定し、9月の出発に向け、準備を進めております。
②のインターンシップ研修は8月26日から開始、3名の学生が東京でJT、双日や卒業生が勤めるコマツの各本社を訪問、サンクトペテルブルクではJTIペトロ工場、モスクワの双日ロシア会社や東洋トランスなど日ロの最前線で働く職場を見学、両日本センターなども訪れる予定です。
自由行動の時間もあり、ロシアの芸術文化に触れることもできます。学生にとっては経済的負担が少ない中で在学中に見聞を広める絶好の機会です。卒業後の進路に生かせるよう、現地では積極的に行動し、たくさんのことを吸収するよう願います。
学生からの投稿
1年生特集『本校に入学して』
ロシア語科 谷村 康夫
函館山八幡坂に面する学校の七番教室から毎朝、函館湾や駒ケ岳を眺めて、ロシア語の勉強を始め、二か月以上経った。昔、ロシア語を一年間学ぶ機会があったが、別の言語を選んだ。それ以来、いつの日かロシア語を学びたいと思っていた。家族状況が変わった機会に、会社生活に終止符を打ち、「四十からの手習い」ならぬ「前期高齢者の手習い」で、本校に入学した。
ロシア語は、幕末に森有礼が「欧州で学習が最も難しい」と云ったように、ラテン語系言語と発音と文字の読み方が異なり、私のロシア語学習は困難を極めている。先生方は、皆、熱心に学生を教育され、宿題が多く出される。毎日、そのロシア語の暗記に四苦八苦だ。懸命に勉強しても、まったく効果がでない。
これから、どの位、学習を続けられるかわからないが、精一杯、ロシア語の習得を目指し、頑張っていきたい。
ロシア地域学科 工藤 文弥
僕がこの大学に入学して早や二カ月が経ちます。学校がある日は必ずロシア語の授業があり、毎回知らない単語や難しい発音が出てきて大変ですが、ネイティブの先生に囲まれた環境でしっかりと学べるのがこの大学の良さだと思います。
次に、英語の授業では、高校で習った文法等をより日常的な表現に置き換えて授業を行っています。
他にも文化史、民族学、日ロ関係史などの科目があり、ロシアのスペシャリストを目指す環境が揃っていると改めて思いました。
この大学は他の大学と比べると人数が非常に少ないですが、少ない分、先生が一人ひとりをよく見てくれるので、その点で他の大学よりも勝っている部分が多いと思います。
僕はロシア語を学ぶためにこの大学を選び、後悔していません。ロシア語を学びたいという方にはぴったりな大学だと僕は思います。
ロシア地域学科 佐藤 和樹
本校に入学して二カ月半経って実感することは、確実にロシア語の読む力と語学力が上がったことです。授業は難しいけど、授業で使っている音源があるので家での勉強がはかどります。分からないことは先生に聞くとしっかり教えてくれます。この学校は、休むと後々影響が出ることを知りました。
英語は勉強をしておいたほうがいいです。なぜなら、中学や高校で学んで話せることを前提で進むからです。今は理解できていますが、これからどんどん難しくなりそうです。
ロシア語については、私はロシア語を話せる先生から少しだけ勉強しました。発音とキリル文字は、最初から分かっていた方が得をします。でも、単語はこの学校で勉強したほうがいいです。それ以外にも、自分の住んでいる場所とロシアとの関係を少しでも多く知っていると役に立ちます。
この学校はとても楽しく勉強ができるのでオススメです。
ロシア地域学科 鈴木 康太
ロシア極東連邦総合大学函館校に入学して約二カ月半が経過しました。入学した4月頃はキリル文字を一つも知りませんでしたが、今ではきちんと文字が読めるようになりました。ロシア語を学ぶのは大変だと聞いていましたが、今のところは先生方の熱心で分かりやすい授業のおかげでなんとか付いて行ってます。
そして、今回JT夏季短期インターンシップの奨学生に選ばれ、モスクワとサンクトペテルブルクに行くことになりました。ロシアに行くどころか、海外は初めてなので、楽しみでもあり、不安でもあります。
このすばらしい機会を有益なものとするめに、これからも授業をしっかり受け、勉強に励みます。
お知らせ
小学生対象夏休みマトリョーシカ絵付け体験教室
ロシア人の先生が下絵を描いた白木のマトリョーシカに一人1個、色をぬります。小さなお子さんでも簡単に作業ができるので、夏休みの自由研究に最適です。大きさは、大・中・小あり、その中から1個選んでいただきます。またロシア語で作った名札もプレゼントします!興味がある方はぜひご連絡ください。
詳しくはホームページにも記載しております!そちらもどうぞご覧ください。
日時:8月9日(火)9:00~12:00
場所:ロシア極東連邦総合大学函館校 ロシアセンター
費用:一人1,500円(当日いただきます)
定員:小学1~6年生 10名まで
申込:ロシア極東連邦総合大学函館校
事務局までお電話でお申込み下さい。
定員になり次第、締め切らせていただきます。
電話:0138-26-6523(月~金 9:00~17:00)
函館日ロ親善協会からのお知らせ
○ 4月20日(金)
日本ユーラシア協会函館地方支部ほか関係団体と協力して発起人会を立ち上げ、在札幌ロシア連邦総領事館函館事務所ウスチノフ・イーゴリ所長の送別会を開催いたしました。発起人代表として当会の松本会長から開会挨拶があり、終始和やかな雰囲気の中、盛会のうちに終了しました。
ウスチノフ所長は約4年間函館事務所所長をつとめられ、退官後は本国に帰国されており、5月からは後任としてソコロフ・ボリス所長が着任されております。
○7月以降の予定
2012年から当協会も参加している『はこだてグルメサーカス』ですが、今年も出店を予定しております。
今年は9月10日(土)・11日(日)開催予定です。毎年好評のピロシキやボルシチをご用意いたしますので是非ご来場ください。
係りより
1年生は、函館での生活にも徐々に慣れ、ロシア語の勉強に一生懸命取り組んでいます。宿題が多いため、毎日四苦八苦しています。
今月末には前期の試験が始まります。授業を欠席せず、日々の積み重ねを大切に。(倉田)