21世紀の函館校
ロシア極東国立総合大学函館校 校長 イリイン・セルゲイ
人類は21世紀の敷居をまたいだ。ご承知の通り、20世紀は物理学や化学などの分野において偉大な発見が相次いだ時代だったが、2 度の世界大戦が起こった世紀としても知られている。
世界の人々は、21世紀には、進歩・調和・平和などが地球を支配すると期待している。そうした社会をつくるための条件の一つとして、教育の国際化が必要なのだと思う。
20世紀には既に、多くの国々の教育者がこれをよく理解しており、教育の国際化を進めていた。例えば、オーストラリアだけでも、最近10年間で外国からの留学生は10倍に増えたし、中国や日本も長年にわたって教育の国際化の道を歩んでいる。
ソ連が崩壊した後のロシアでも、教育の国際化が世界の潮流だと知って、多くの大学が国際教育プログラムを発展させるようになった。現在、ロシアには10万6千人の外国人留学生がいる。
もちろん、極東国立大学もロシア屈指の教育機関として、積極的にこのプロセスに参入してきた。そして象徴的なことに、本学が一番最初に協力関係を結んだ外国の相手は日本の大学(創価大学)になった。そして今、極東国立大学は、ほとんどの東南アジア諸国の大学や多くのアメリカの大学とパートナーシップを築いている。
教育国際化のプログラムの目的はもちろん、国際人の育成、国民と国民との友好関係発展などである。でも私は、もうひとつの目的を指摘したい。
ご承知のように、それぞれの国はそれぞれの(多くの場合、まったく違う)独特の教育制度を持っている。もちろん、各国の教育にはプラス面とマイナス面がある。函館校で学ぶ諸君は、ロシアと日本の教育制度の違いをもう肌で感じたと思う。その意味で、もうひとつの教育国際交流の目的とは、いわゆる「相互教育」である。
現在、多くのロシアの大学が国際交流プログラムに参加しているが、外国に自らの分校を持つのは極東大学のみであり、それは本学の誇りである。函館校が「ユニークな大学」と呼ばれるのは、決して偶然ではない。
将来的には他のロシアの大学も、日本や諸外国に分校を設立するだろうが、函館校は既に20世紀に最初の分校として発足していたし、21世紀にも存続するに違いない。
新しい世紀には、本校の教職員・学生ともに「先駆者」としての誇りと責任を胸に、日本とロシアの交流、そして国際交流を発展させようではないか。
ウラジオストク留学記
ロシアの人々 431吉崎 花野子
以前、私にとってロシアは未知の国でした。時々、テレビや新聞で少しの情報を得るだけでした。
この函館校へ入学後、先生たちはロシアについていろいろなことを話してくれました。先生たちのユーモアあふれる楽しい話を聞いているうちに、ロシアへ行きたいと思うようになりました。
今回、そのロシアへの留学が実現したことで、たくさんの人たちと出会うことができました。
いつだったか、ロシア人は世界で一番優しいと聞いたことがあります。ロシアで生活し始めたばかりの頃、ある女性が私にこう言いました。「私たちの生活は大変だけど、みんないい人ばかりよ」と。約3ヶ月間、いろいろな人たちに支えられて生活してきて、その女性の言葉を肌で感じました。
私がこの留学で強く感じたこと、それはロシアの人々は、たとえ生活が大変でも、それを楽しさに変える力を持っているということ。そういう智恵や精神力の強さが、優しさとつながっているような気がします。
異国ロシアでの貴重な体験と、出会った人々を、ずっと忘れることはないでしょう。
マースレニッツァ
春を迎えるロシアの行事
本校では例年、新年を祝う行事として「ヨールカ祭」を行ってきましたが、2001年は2月23日午後1時から、「МАСЛЕНИЦАマースレニッツァ」を催すことになりました。
ヨールカ祭が「もみの木」のお祭りとしてクリスマスに近いのに対して、マースレニッツァは謝肉祭(カーニバル)にあたり、厳しい冬を追い出して春を迎える気持ちを表したものです。ただしキリスト教(ロシア正教)の例大祭には含まれず、伝統的な民衆のお祭りとして親しまれています。
名称の由来は、祭りにつきものの食べ物ブリヌイ(ロシア風クレープ)につける脂やバター=マスラからきており、ブリヌイは太陽の象徴とされています。
本来のマースレニッツァは、冬を象徴する女性のわら人形(モレーナ)を担いで陽気に練り歩き、食事や演劇、そり滑りや陣取り合戦などの雪遊びで楽しんだ後、わら人形を焼いたり壊して、灰や残がいを畑に捨てます。ロシアの民俗学者プロップは、その著作「ロシアの祭り」の中で、<わら人形を焼く(殺す)ことで冬の象徴を滅ぼし、灰などを畑に捨てることで、死者の持つ力が畑に受け継がれ、春に穀物となって復活することを祈ったのではないか>と指摘しています。
本校では、デルカーチ・フョードル先生が中心となって企画を立てており、校内食堂で演劇やバンド演奏などを楽しんだ後、クライマックスのわら人形を焼く場面は駐車場に出て行います。
第6回ロシア語弁論大会
副賞に航空券や授業料
第6回ロシア語弁論大会は「マースレニッツァ」と同じ2月23日の午前中に行われます。実行委員長は例年通りトリョフスビャツキー・アナトリー副校長、審査委員には、公立はこだて未来大学のリヤボフ・ウラジーミル助教授夫妻らを予定しています。今年もAクラス(上級者)、Bクラス(中級者)、Cクラス(税関研修生を含む初級者)の3部門。
Aクラス優勝者には、表彰状とカップに本校校長賞として新潟―ウラジオストク往復航空券、準優勝には沿海地方行政府副知事賞として極東大学の寮費1ヶ月分など。Bクラス優勝者には、本学学長賞として極東大学ロシア語学校の授業料と寮費1ヶ月分。Cクラス優勝者は賞状にカップ、記念品が贈られることになっています。弁論の優劣とは別に、ユニークなパフォーマンスやジェスチャーなどで会場を沸かせた参加者には、聴衆の人気投票で特別賞も贈られます。
「ТРКИ」実施
1月20-21日に3クラス
本校がかねて準備を進めてきたロシア教育省認定「外国人のためのロシア語能力検定試験(ロシア語略称ТРКИ=テルキ)」が、いよいよ1月20、21日に実施されます。今回はとりあえず3クラスの試験を行い、道外からも受検者が参加する予定です。
同省附属ロシア語能力検定センターが主催するこの試験は、ロシアの大学で学ぼうとする外国人が、ロシア語の講義を理解する語学力があるかどうかを見極める目的で新たに開発され、ロシア国内では1998年から実施されています。ロシアの大学に編入学を希望する外国人は、それまで大学ごとに実施するロシア語試験を受けるか、事前に大学附属ロシア語学校で長期間の研修を受けねばなりませんでした。しかしТРКИに合格すれば、どの大学・大学院でも入学・編入試験を受ける資格を得られます。
試験は、ロシアの大学に入る語学力がある1級、語学・文学系以外の大学編入資格があるか卒業生レベルの2級、語学・文学系の大学卒業レベルで同系大学院の入学資格がある3級、語学・文学系の大学院を卒業したロシア人と同レベルの4級に分かれています。これとは別に、日常会話の習熟度を測る初等テストと、基礎的なロシア語理解力を測る基礎テストがあります。今回は、ロシアの大学進学を目指す学生やロシア語のレベルを試したい人たちのために1級と2級、一般市民への普及を図るために基礎テストを実施します。
本校はロシアの国立大学としては日本で唯一の分校であり、本学であるウラジオストクの極東大学がТРКИ実施のライセンスを持っているため昨年、試験的にТРКИを実施。この時、同センターのディアコノフ・イーゴリー所長が視察に訪れ、ロシア教育省に報告した結果、正式にロシア国外唯一の試験実施場所として認められました。
就職説明会
度胸試しに「模試」も
厳しさの続く就職状況に立ち向かおうと、1月24日午後2時40分から、高学年の就職希望者を対象にした説明会を開催します。最近の就職状況についての説明や、就職活動に役立つガイドブックなどを配付するほか、実際の就職試験であわてないように、度胸試しの「模擬試験」なども行う予定です。
第2回留学説明会
パスポートを持参して
ウラジオストクへ留学するロシア語科1年生を対象とした第2回留学実習説明会を2月5日に開きます。この日は、ロシアに入国するための査証(ビザ)と招待状の申請書類に記入していただくほか、海外旅行保険の説明も行います。
手続きを進めるためには、パスポートと自分の顔写真3枚が必要です。正月や休み中に取得しなかった参加予定者は、説明会までに必ず取得しておいてください。渡島支庁総務課(函館市美原4丁目6番16号、℡0138-47-9000)で取得できますが、発給には申請から約2週間必要。申請用紙は本校事務局にもあります。
親善協会のXマス
サーシャが大活躍
函館日ロ親善協会の事務局が本校に移った2000年は本校と親善協会共催のクリスマスパーティーが昨年12月9日夜、函館国際ホテルを会場に開かれ、各界からの来賓や協会会員および本校教職員とその子弟ら合わせて約60人が出席。ウラジオストクの本学から留学中のマカロワ・エカテリーナさんも参加しました。
パーティーは和やかな雰囲気で進み、マトリョーシカや五島軒のボルシチ缶詰などが景品のビンゴゲームで盛り上がり、最後にアニケーエフ・アレクサンドル君(アニケーエフ・セルゲイ教頭の五男、市立弥生小4年)が締めくくりの乾杯であいさつ。
「こんなに大勢の前で乾杯のあいさつをするのは最初で最後になるでしょう。この機会を僕に与えてくれたことに感謝します。それでは、ここに集まった日本とロシアの皆さんの友好をグラスに注いで乾杯したいと思います」と名演説を披露して、満場の喝采を浴びました。
函館校20世紀10大ニュース
①極東大学函館校が開講
②ロシア語市民講座を開講
③ベリョースカクラブを開設
④若者向けにロシアクラブ
⑤本校卒業生の同窓会発足
⑥ムミートローリー初公演
⑦日ロ交流フェスティバル
⑧イリイン杯チェス大会
⑨ロシア正教総主教来校
⑩吉崎さんがウラジオ留学
はこだてロシアまつり
1000人入場しにぎわう
第3回はこだてロシアまつりは昨年11月11日(土曜日)に行われ、好天にも恵まれて約1000人が入場しにぎわいました。人気のまとはロシア料理レストラン。今回は店名を「シベリア鉄道」として、内装もモスクワ-ウラジオストク間を結ぶ長距離列車の室内をイメージして飾りつけ。おなじみのボルシチ、ピロシキ、ペリメニに加えて、“大人の味”の特製スープ(サリャンカ)「ロシア号」が飛ぶように売れました。唯一残念だったのは、シャシュリクが味付け失敗で提供できなかったことです。
初めてのチェス・シャーシキ・コーナーでは、ベリョースカクラブ受講者でもある高佐一義さんと、公立はこだて未来大学の川越敏司講師らが中心となり、来訪者と盤を挟んで熱戦を展開。ステージでは、留学生を交えた合唱やバンド演奏、ロシアの棒倒しゲーム「ガラトキー」実演も行われ、池田有希・片倉大輔コンビが軽妙な司会で盛り上げました。
ロシア語教室も相変わらずの人気で、コーニェワ・スヴェトラーナ先生は大忙し。パネル展ではウラジオストク留学中のスナップ写真展示やロシアのビデオも放映し、「ガイド役」のグラチェンコフ・アンドレイ先生たちが説明に務めていました。バザーは開場と同時に主婦らが殺到、品定めをしていました。
短信
本学からロシア人留学生
ウラジオストクの極東国立総合大学から、昨年10月末に東洋大学日本語科の学生6人が本校へ語学留学にやってきました。このうちイエラストフ・コンスタンチン君は来日早々、事情で帰国してしまいましたが、残る5人は1ヶ月間、函館で、語学だけでなく日本文化もじっくり勉強。マカロワ・エカテリーナさんはさらに1ヶ月延長して12月末まで滞在し、研修をこなしました。
黒田総領事が来校
在ウラジオストク日本総領事館の黒田義久総領事が昨年10月半ばに本校を訪れてくださいました。講義終了後とあって授業風景を見ていただくことはできませんでしたが、ちょうど「はこだてロシアまつり」に出演するためバンド演奏の練習中だった学生たちと言葉を交わしたり、イリイン・セルゲイ校長の案内で校内を回るなど、本校の状況をじかにご覧になりました。
クリーロフ学長が来校
クリーロフ・ウラジミル極東国立総合大学学長が昨年11月中旬、本校を訪ねました。学術交流協定を結んだ京都の立命館大学、新潟の新潟国際情報大学を訪問する途中に立ち寄ったものです。学長は、今春、ウラジオストク開基140周年記念式典に出席し、本学名誉博士号を授与された井上博司函館市長と再会したほか、開学したばかりの公立はこだて未来大学も視察されました。
≪係りより≫
今年はいよいよ西暦(グレゴリオ暦)2001年。新たなミレニアム(千年紀)といい、21世紀という。他方、イスラム暦では1422年、インド暦では1922年、チベット暦では2127年、マヤ暦では5116年、エチオピア暦では1993年、ヘブライ暦では5761年、さすがに中国は複雑で4000-4700年、そして日本の皇紀では2661年となる。
世界の国々や民族には、それぞれ固有の歴史と文化があり、それを計る「ものさし」として暦があり、それを表現し記録する手段として言語を持っている。世界には、さまざまな時間が流れ、いろいろな言葉で語られる物語が満ちている。(みやなが)